新規オイルゲル化剤(C16AG、C18AG)の有機溶媒フリー合成法

要約

澱粉由来の糖である1,5-anhydro-D-glucitol(AG)粉末と脂肪酸(パルミチン酸・ステアリン酸)の粉末および塩基を容器に入れ、230°Cに加熱し4時間攪拌するだけで、高収率にオイルゲル化剤を得ることができる。

  • キーワード : 1,5-anhydro-D-glucitol、オイルゲル化剤、熱合成
  • 担当 : 食品研究部門・食品加工・素材研究領域・バイオ素材開発グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

我々はこれまでに、澱粉由来の糖である1,5-anhydro-D-glucitol(AG)に脂肪酸を結合させた化合物(C16AG、C18AG)が非常に高性能なオイルゲル化剤である事を見出しているが、その合成法は法令対応が必要な試薬・有機溶媒を多量に使用する手法であり、オイルゲル化剤を簡便に製造するうえで隘路になっている。また、広く流通させるためには、従来法で使用している高価な試薬を使用しない安価な合成手法の開発が必要である。さらに環境保護の観点から、合成にはグリーンケミストリーの手法が求められている。
本研究では、反応溶媒を用いず、AGと脂肪酸の粉末を230°Cで加熱、融解して混合するだけで、澱粉由来の高性能なオイルゲル化剤を熱合成する手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 澱粉由来の糖であるAG(粉末)と脂肪酸(パルミチン酸もしくはステアリン酸、いずれも粉末)および塩基を容器に入れ、230°Cに加熱し4時間攪拌するだけで、目的とするオイルゲル化剤を高収率にて得ることができる(図1、2、表1)。
  • 低価格化および環境負荷を抑えるために塩基を加えない反応を検討したところ、塩基を加えなくても糖と脂肪酸だけで反応が進行する(図2、表1)。
  • 従来法と比較してオイルゲル化剤の純度およびゲル化能は同程度である。
  • AGを脂肪酸エステル化する工程の原材料コストが従来法と比較して約90%削減可能である。

成果の活用面・留意点

  • オイルゲル化剤を高純度化する場合は、合成反応後の精製工程にのみアセトンを使用する。工業的製造においては、アセトンを蒸留、精製してリサイクル使用することが可能と考えられる。今後は、精製工程を含め全工程で有機溶媒を使用しないオイルゲル化剤の合成法を開発する予定である。
  • 本手法により高価な試薬や多量の有機溶媒が不要となり、オイルゲル化剤の大量製造及び製造コスト削減が期待できる。

具体的データ

図1 AG、脂肪酸(パルミチン酸)および触媒(NaOH)を混合し、230°Cで加熱した時の生成物の経時的変化(化合物1の合成)。,図2 触媒の違いによる反応効率の変化(化合物1の合成)。,表1 オイルゲル化剤(化合物1および2)の合成。

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2022~2023年度
  • 研究担当者 : 今場司朗、岩浦里愛
  • 発表論文等 : Komba S. and Iwaura R. (2023) Rsc Adv. 13:9316-9321
    doi:10.1039/d3ra01328f