一定の基準点に基づいた味覚センサ出力値による再現性の高いイチゴの味強度評価法

要約

クエン酸とスクロースを含む標準液を用い、ポリビニルポリピロリドン(PVPP)による甘味測定用試料の前処理を取り入れることにより、再現性の高いイチゴの酸味および甘味強度評価が可能となる。本技術は産地・品種の育成やブランド化への活用が期待できる。

  • キーワード : 味覚センサ、イチゴ、標準液、酸味、甘味
  • 担当 : 食品研究部門・食品流通・安全研究領域・分析評価グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

農産物の品質評価では、異なる日時と場所で取得されたデータ間の比較がしばしば必要となる。味に関するこのような情報を得るために味センサ技術の利用は有効な手段となり得る。しかしながら、その際に任意の測定試料のセンサ出力値を味強度データの基準点として用いる通常の方法を適用することは望ましくない。これは、農産物の場合には常に同一の基準試料を用意できないことによる。したがって、センサデータの基準点をどのように設定するかは重要な課題となっている。そこで、本研究では市販の味覚センサを用いたイチゴの味強度評価値が常に一定の基準点に基づく値となるように、純粋な化学物質から調製される標準液を用いてそれらを標準化する評価法を開発する。さらに、センサデータが官能評価結果と一致しないことが報告されている1)イチゴの甘味について、センサ出力値の改善を図る。

成果の内容・特徴

  • 本方法では、クエン酸(21 mM)とスクロース(146 mM)を含む標準液をセンサ出力値の基準として用いる。これにより常に基準点が一定となることから、同一の標準液を使用して得られたデータ間の比較が可能となる。なお、この標準液のpH、Brix値、電気伝導率は平均的なイチゴ果汁とおおよそ同等の値を示す。
  • イチゴに含まれるポリフェノール化合物の一つであるエラグ酸は甘味センサプローブを劣化させ、その出力値に影響を与える(図1)。3% (w/v)のポリビニルポリピロリドン(PVPP)による前処理によりポリフェノール類を除去することで、その劣化を防止することができる(図2)。
  • pHおよびBrix値はイチゴの酸味および甘味の強さと高い相関を示すことが報告されている1,2)。本方法で取得されたイチゴの酸味および甘味強度は、pHおよび糖含量(スクロース、フルクトース、グルコース含量を、これらの示す甘味強度を考慮してスクロース相当として換算したもの)と良好な相関を示す(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 本方法で用いる標準液は、イチゴの酸味および甘味強度評価に特化したものである。
  • 他の品目についても同様のコンセプトで味覚センサデータの標準化が可能であるが、その場合には試料の前処理法も含め、その品目に適した標準液を作成する必要がある。
  • 本方法で取得したデータは一定の基準点を有することから、取得日時、場所が異なっても原理的に相互比較が可能であるが、本方法についての妥当性確認試験は現時点で実施していない。
  • 本方法は、イチゴの産地・品種の育成やブランド化へ活用できる。

具体的データ

図1 ポリフェノール類の甘味センサプローブへの影響,図2 PVPP処理による甘味センサプローブ劣化防止の効果,図3 味覚センサ酸味および甘味推定値とイチゴ果汁のpHおよび糖含量の相関

引用文献:

  • 木下、柘植(2019)味覚センサを用いたイチゴの食味評価「青果物の鮮度評価・保持技術」pp.165-176、NTS、東京
  • 野口ら(1989)九州農業研究、51:199

その他

  • 予算区分 : 交付金、民間資金等(資金提供型共同研究)
  • 研究期間 : 2022年度
  • 研究担当者 : 氏原ともみ、林宣之、石田祐樹(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー)、池崎秀和(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー)
  • 発表論文等 : Ujihara T. et al. (2023) Biosci. Biotechnol. Biochem. 87:890-897