低酸素処理による貯穀害虫の殺虫効果

要約

窒素ガス置換を用いて貯穀害虫を完全殺虫する条件は、酸素濃度0.1-0.2%、温度30°C、4日以上の処理である。

  • キーワード : 低酸素、窒素ガス、コクゾウムシ、タバコシバンムシ、死亡率
  • 担当 : 食品研究部門・食品流通・安全研究領域・食品安全・信頼グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

現在、植物防疫の分野では、臭化メチルやリン化水素によるくん蒸により殺虫が行なわれている。しかし、地球環境や人間への安全性に対する配慮や薬剤抵抗性害虫の問題があり、別の選択肢となる殺虫技術の開発が求められている。
そこで、本研究では窒素ガス置換を用いた低酸素処理により、完全殺虫が可能な条件について、酸素濃度、処理温度、処理期間を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 酸素濃度0.1-0.6%、温度30°C、2、4、7、10、14日処理の貯穀害虫4種の成虫・卵に対する致死効果は、タバコシバンムシとコクゾウムシの低酸素耐性が強く、とくにタバコシバンムシ卵の死亡率100%には14日処理が必要である(表1)。
  • 酸素濃度0.1-0.2、0.3-0.4、0.6-0.7、1.0-1.1、2.9-3.0%、温度30°C、1-7日処理のタバコシバンムシとコクゾウムシの成虫・卵に対する試験結果によって、酸素濃度0.1-0.2%、温度30°C、4日処理の条件が最短で死亡率100%に到達する(表2、図1)。このことは、酸素濃度の変動を抑えることが処理期間の短縮につながることを示す。また、酸素濃度0.1-0.2%、温度25、28、30°Cでの死亡率100%に到達する処理期間は、7、5、4日であり、30°Cの殺虫効果が最も高い。
  • 酸素濃度0.1-0.2%、温度30°C、7日処理における一日中断(大気の酸素濃度に戻る)の挿入時期がタバコシバンムシとコクゾウムシの成虫・卵の死亡率に与える試験により、タバコシバンムシ卵に対して4日目に一日中断を挿入すると、連続3日間処理が2回となり積算の処理期間は6日であるが、平均死亡率は100%にならない。このことは、タバコシバンムシ卵の完全殺虫には連続した4日の処理が必要であることを示す(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 低酸素耐性が強いタバコシバンムシの卵を完全に殺虫可能な酸素濃度0.1-0.2%、温度30°C、4日処理という条件は、他の多くの害虫に対しても高い殺虫効果を期待できる。
  • 低酸素処理期間の酸素濃度の変動を抑え、より高温で処理することが、完全殺虫のための処理期間の短縮に効果的であるが、処理対象物の品質に対する高温の影響を考慮する必要がある。
  • 窒素ガス置換による大量の低酸素処理には、大規模施設の空間の低酸素状態を長期間保持するガスバリア性が必要である。
  • 大規模低酸素施設を用いた低酸素処理を実施する際には、処理対象物の量、形状、かさ密度、品温が酸素濃度の低下や温度上昇に影響することが想定され、処理対象物によって完全殺虫に到達する処理期間が異なる可能性がある。

具体的データ

表1 酸素濃度0.1-0.6%、温度30 °C、2、4、7、10、14日処理での貯穀害虫4種の卵・成虫に対する致死効果,表2 異なる酸素濃度での温度30 °C、1-7日処理での対象害虫の致死効果,図1 酸素濃度0.1-0.2%、温度30 °C、1-7日処理での対象害虫の平均死亡率,表3  酸素濃度0.1-0.2%、温度30 °C、7日処理における一日中断(大気の酸素濃度に戻る)の挿入時期が対象害虫の死亡率に与える影響

その他

  • 予算区分 : 交付金、民間資金等(資金提供型共同研究)
  • 研究期間 : 2021~2022年度
  • 研究担当者 : 宮ノ下明大、北澤裕明、萩田美乃里((株)ツムラ)、土方野分((株)ツムラ)
  • 発表論文等 :
    • 宮ノ下ら(2022)都市有害生物管理、12:25-31
    • 宮ノ下ら(2023)都市有害生物管理、13:53-61