水稲品種「やわらまる」の低温糊化性を活かした復元時間の短い米粉即席麺

要約

水稲粳品種「やわらまる」はデンプン枝付け酵素1遺伝子の欠損により、米デンプンが低温で糊化する。この特性を活用することによって、復元時間を従来品の約2/3に短縮した米粉即席麺の製造が可能である。

  • キーワード : 米粉、即席麺、澱粉、アミロペクチン、糊化
  • 担当 : 食品研究部門・食品流通・安全研究領域・流通技術・新用途開発グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

近年の穀物価格の高騰もあり、輸入が多くを占める小麦の代替食品の開発・普及が求められている。国産米を原料とする米粉即席麺は小麦アレルギーにも対応可能な製品素材であるが、添加物等の使用を抑えた従来品は復元時間が10分以上かかるという難点があった。
本研究においてはデンプン枝付け酵素1遺伝子の変異によってアミロペクチンの短鎖比率が高くなり、米デンプンが低温で糊化する「やわらまる」の特性を活かすことで、復元時間を短縮した米粉麺を開発する。

成果の内容・特徴

  • 湿式気流粉砕した「やわらまる」の米粉は、同等の製粉を行った従来製品の原料米粉と比較して、水を加えて加熱した際、糊化によって粘度が上昇し始める温度が約5°C低い(表1)。
  • 「やわらまる」の米粉の糊化ピーク温度は65.2°Cと従来製品の原料米粉より約6°C低く、糊化に要する熱量も11.8 J/gと従来製品の原料米粉の約82%と小さい(図1)。そのため「やわらまる」の米粉は、加水と加熱を伴う麺生地の製造工程において糊化が進みやすいと推定される。
  • アルファ化米粉等の副原料を加えて製造した即席麺の粉砕粉の糊化特性において、「やわらまる」の即席麺では主要な糊化のピーク温度が59.2°Cであるのに対し、従来品では主要な糊化ピークが2つあり、それぞれピーク温度は58.8°Cと71.2°Cであった。また、糊化熱量は、「やわらまる」が3.4 J/gと従来製品の58%であり、低温且つ小さい熱量で糊化する(図2)。
  • 製造した即席麺の復元性について官能評価を行った結果、従来品においては湯戻し11分で硬さがちょうど良いとの評価が多いのに対して、「やわらまる」の即席麺では、湯戻し8分がちょうど良いとの評価が多い(図3)。従って「やわらまる」の米粉を原料にすることで、復元時間を約2/3に短縮した米粉即席麺の製造が可能である。

成果の活用面・留意点

  • 本成果の米粉即席麺の製法は特許出願済みであり、その利用には利用許諾が必要である。
  • 「やわらまる」は2023年に農研機構から品種登録出願した水稲粳米品種である。
  • 「やわらまる」の低温糊化性を活かした本成果は、即席麺以外に復元時間の短いアルファ化米等への利用の可能性を示唆している。
  • 「やわらまる」の米粉の糊化温度は、一般品種と同様に登熟気温によって影響を受け、高温年には糊化温度が上がると想定される。高温年の原料米粉を用いる際には、異なる産年の米粉をブレンドする等、復元性の品質管理に留意を要する。
  • 即席麺は、具材やスープと共に製品化されることが多い。小麦アレルギーに対応した製品とするには、米粉麺だけではなく具材やスープについてもアレルギー対応を行う必要がある。

具体的データ

表1 米粉即席麺の原料米粉の特性,図1 米粉即席麺原料粉の糊化熱量特性,図2 米粉即席麺粉砕粉の糊化熱量特性,図3 米粉即席麺の復元性(硬さ)の官能評価

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(スマート農業技術の開発・実証・実装プロジェクト)、民間資金等(資金提供型共同研究)
  • 研究期間 : 2021~2023年度
  • 研究担当者 : 梅本貴之、荒木悦子、松木順子、竹内善信、小林宏規(小林生麺株式会社)
  • 発表論文等 :
    • 梅本ら、特願(2022年12月28日)
    • 竹内ら「やわらまる」品種登録出願公表第36724号(2023年8月22日)
    • Umemoto T. et al. (2022) J. Cereal Sci. 106:103479
      https://doi.org/10.1016/j.jcs.2022.103479