携帯型メタン計を用いた水田からの経路別メタン排出量の迅速評価手法

要約

本手法は、一般的なクローズドチャンバ法に原位置でのメタン濃度測定を組み合わせた水田メタン排出量の迅速評価手法である。従来30分程度を要していた測定を最短4分に短縮するとともに、イネ体を通る経路と泡(バブリング)として排出されるメタンとを分離定量する。

  • キーワード:温室効果ガス、CH4、イネ、クローズドチャンバ法、温暖化緩和策
  • 担当:農業環境研究部門・気候変動緩和策研究領域・革新的循環機能開発グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

メタンは水田から排出される主要な温室効果ガスであり、その排出量測定には手動ガスサンプリングを伴うクローズドチャンバ法が広く用いられている。この手法は、1測定あたり圃場で30分程度の時間を要し、ガス分析作業も別途必要となるためスループットが限られ、削減技術開発における制限要因の一つとなってきた。一方、メタンはイネの通気組織を介して大気へ排出される以外に、気泡の上昇(バブリング)によっても突発的に排出されることが知られている。しかし、従来のクローズドチャンバ法ではトータルのメタン排出量しか測定出来ないため、バブリングの実態は不明で、それが排出量推定における一つの不確実性要因となっている。そこで本研究では、高精度・高時間分解能の携帯型メタン計を活用し、チャンバ内メタン濃度の変化を秒単位で捉えることで、迅速かつ経路別にメタン排出量を定量する手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • クローズドチャンバ法にバッテリーで駆動する携帯型メタン濃度計を接続し、チャンバ内のメタン濃度変化を秒スケールで観測する(図1)。チャンバ内濃度はタブレットやスマートフォンによってリアルタイムに確認できる。イネ経由の排出は時間に対して直線的な濃度上昇として、バブリングは階段状の急上昇として観測される(図2-a)。
  • 得られた濃度データをフラックス(単位時間・面積あたりの排出量)の時系列データに変換・平滑化し(図2-b、赤線)、その確率密度分布を計算することで、イネ経由のフラックスが求まる(図2-c、極大値の中で最小のフラックス。図2-bでは緑線に相当)。バブリングによる排出は、全排出量とイネ経由との差分として計算する。このデータ解析は、Rのスクリプト処理によって、多数の測定データを一括して行うことができる。
  • 十分な精度で測定するために必要なチャンバ設置時間は、泡が少ない場合は4分程度であり、泡が多発する場合(2.5回/分)は15分程度である(表1)。2カ年-3,255点の測定では、99%以上のケースで10分以内に測定を完了できた。
  • これらの現場計測手法とデータ解析法を用いることによって、従来法と比べて3倍程度のスループットでメタン排出量が評価できる他、イネ経由とバブリングによる排出を分離定量できる。

成果の活用面・留意点

  • 本手法は、チャンバを順次移動させながら行うため、比較的小さな処理区・プロットが並んで配置されている場合に特に適する。チャンバはアルミ製の台座などの上に設置し、直接土壌表面には設置しないようにする(図1-c)。
  • 高精度・高時間分解能をもちバッテリー駆動可能なメタン濃度計を準備する必要がある。メタン濃度計は圃場に持ちこむことも可能だが、畦畔等に設置してそこからチューブでチャンバに接続する方が転倒等による事故・故障のリスクが低く望ましい(図1-a、bでは軽バンの中に設置)。ガス循環用チューブやメタン計内部における結露を防ぐため、水蒸気を選択的に透過するチューブ(Nafionなど)を用い、ガス濃度シグナルを減衰することなく除湿することが望ましい(図1-d)。
  • 表1に示すのは、測定時間を延長してもメタン排出量がほとんど変化しなくなるチャンバ設置時間である。ここではメタン排出量の変化が「イネ経由排出の10%以下」となることを基準とした。したがって必要な設置時間は、この基準値の取り方や圃場環境等によるバブリング頻度の違いによって、変わる可能性がある。

具体的データ

図1 携帯型メタン計を用いた水田からのメタン排出量の観測方法,図2 経路別メタン排出量(フラックス)の解析方法,表1 必要なチャンバ設置時間

その他

  • 予算区分:交付金、文部科学省(科研費 JP16H06204、JP19K22921、JP19H03096、JP20J40189)、NEDO(ムーンショット型研究開発事業)
  • 研究期間:2019~2021年度
  • 研究担当者:常田岳志、梶浦雅子(JSPS-RPD)
  • 発表論文等:
    • Tokida T. (2021) J. Agric. Meteorol. 77:160-165
    • Kajiura M. and Tokida T. (2021) J. Agric. Meteorol. 77:245-252
    • Kajiura M. and Tokida T. (2022) J. Agric. Meteorol. 78:41-45