ドローン空撮画像と機械学習による圃場内の土壌理化学性分布の把握方法

要約

地上で測定した土壌理化学性データとドローン空撮画像の関係について機械学習を行うことにより、土壌理化学性の分布を高精度で推定できる。土壌理化学性の空間分布を詳細に把握することで、生育ムラ対策等を行う際の判断材料とすることができる。

  • キーワード:地理情報システム、地力ムラ、ランダムフォレスト回帰、UAV
  • 担当:農業環境研究部門・土壌環境管理研究領域・農業環境情報グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

圃場内の地力ムラや生育ムラに応じた農地管理を行う精密農業に注目が集まっている。精密農業では、土壌特性分布に基づいて肥培管理を行う必要があるため、人工知能やドローン空撮等の先端基盤技術を用い、圃場内の土壌理化学性の空間分布を詳細に把握する方法が求められている。特に、ドローン空撮画像は高い解像度を有するため、人工知能の構築(機械学習)に必要なビッグデータとしての活用も期待されている。
機械学習の実装に十分なデータ量は数千~数万点であると言われているが、通常の地上調査で取得できる土壌データ数は多くても圃場あたり数十点である。そのため、ドローン空撮画像と土壌特性の関係についての機械学習は、通常の手法では収集可能なデータ点数の観点から困難である。本成果は、上述のデータ不足を地上調査データの拡張によって補い、ドローン空撮画像を活用した土壌理化学性の分布推定を高精度化する手法である。

成果の内容・特徴

  • 本手法では、ドローンで撮影した可視およびマルチスペクトル画像と、圃場内数十点から採取した表層土壌試料の理化学性分析値について機械学習を行うことで、圃場内の土壌理化学性分布を高精度で推定している。
  • 土壌理化学性の分析値と空撮画像の関係についての機械学習を行うために、試料採取地点から一定範囲内の土壌理化学性が均一と仮定し、各土壌理化学性分析値と範囲内に含まれるドローン空撮画像のピクセル値を紐づけることでデータを拡張する(図1)。
  • 各指標の実測値と推定値の関係(図2)は、本手法によって圃場内の土壌理化学性分布を精度高く推定できることを示す(図2、赤部分)。一方、上記のデータ拡張を行わない場合に利用される手法の一つである重回帰分析では、高い精度は得られない(図2、青部分)。
  • 機械学習(ランダムフォレスト回帰)により算出されたモデルの予測結果を地図上に展開することで、圃場内の土壌特性分布図を作成できる(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 十分な推定精度を得られるのは実際にUAVで観測した場所での土壌理化学性を学習させた場合である。他の場所で同様の空間推定を行いたい場合は、その都度、地上で採取した土壌理化学性の分析値とドローン観測を要する。
  • 推定結果を正規化植生指数(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)等の生育指標と組み合わせることにより、土壌理化学性の分布に基づき圃場内の生育ムラの要因を考察することが出来る。

具体的データ

図1 円バッファによるデータ拡張,図2 各土壌指標の実測値(obs)と推定値(pred)の関係,図3 各土壌特性の分布推定図

その他

  • 予算区分:交付金、文部科学省(科研費 20K15631)
  • 研究期間:2019~2021年度
  • 研究担当者:森下瑞貴、石塚直樹
  • 発表論文等:
    • 森下、石塚(2021)システム農学、37:21-28
    • 森下、石塚(2020)システム農学、36:55-61