バンド間の位置ずれのない高品質なマルチスペクトルオルソモザイク空撮画像の作成手法

要約

ドローン観測の後処理に広く利用されるソフトウェアの推奨手法は、作成される画像の位置精度が悪く、分光画像間にも大きなずれを生じさせる問題を有していた。新たに開発した手法は、これらの問題を解決し、作物の葉1枚1枚の色を観測するのに十分な位置精度を有する。

  • キーワード:ドローン、マルチスペクトルカメラ、植生指数、葉色、位置精度
  • 担当:農業環境研究部門・土壌環境管理研究領域・農業環境情報グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

マルチスペクトルカメラ搭載した小型ドローンは、圃場内の生育むら評価や病害虫の発生状況を監視に活用できるスマート農業用センシングツールとして、葉色マップにもとづく可変施肥サービスや高品質作物の生産支援のための活用実証研究に使われている。現在、日本では、安価かつ高性能なD社製のマルチスペクトルカメラ搭載小型ドローン(以下、MSドローン)とA社製の3次元モデリング・オルソモザイク処理ソフトウェア(以下、SfM/MVSソフト)を組み合わせた利用が広く行われている。A社製SfM/MVSソフトには、マルチスペクトルカメラ画像(以下、MS画像)に対応した専用処理フローが用意されているが、D社製MSドローン画像に完全に対応しておらず(2021年7月5月時点)、マルチスペクトルオルソモザイク画像(以下、MSオルソ画像)の画素レベル位置誤差(30m高度撮影時)が平均3cmと大きく、作物の葉1枚ごとの葉色を評価するのに十分な位置精度を有していない問題があった。そこで、本研究では、バンド間の位置ズレが少なく、絶対的な位置精度の良い高品質なマルチスペクトルオルソモザイク画像を作成する処理手法を新たに開発し、従来方法に対する位置精度の改善効果および植生指数を用いた作物生育モニタリング結果に与える影響を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 提案手法は、従来手法で推奨されるMS画像処理手順を使わず、通常のRGBカメラ画像を対象とした処理手順を用いる(図1)。
  • 提案手法は、分光スペクトルバンド毎にGCP(地上基準点)情報の入力・タイポイントの抽出(画像間でマッチングした特徴点)を行う。そして、5バンドすべてのGCP情報・タイポイントを統合した上でカメラパラメータ推定(カメラレンズによる歪み・撮影位置・方向等の推定)を行い、5バンド共通の数値表層モデル(作物の高さを表した3次元モデル)および分光スペクトルバンド毎のオルソモザイク画像を作成する。
  • 提案手法によるMSオルソ画像(高度30mで撮影時、1画素 1cm)では、従来手法に比べ位置精度が2.5cm向上し、バンド間のズレが3.1cm 向上する。
  • 撮影高度の異なるMSオルソ画像から作成された2種類の植生指数(クロロフィルインデックス:CIgreen,正規化植生指数:NDVI)を画素レベルで比較した結果、提案手法を用いた場合の相関係数(CIgreen:r=0.85, NDVI:r=0.93)は、従来手法を用いた場合(CIgreen:r=0.61, NDVI:r=0.86)よりも高い(図2)。このように、提案手法は、バンド間の位置ズレの少ないMSオルソ画像(図3)を作成することで、画素レベルの植生指数観測値の再現性が従来手法よりも高く、植生指数を用いた作物の生育状態の推定モデルの精度向上に有効である。

成果の活用面・留意点

  • 提案手法は、A社製SfM/MVSソフトを用いて、複眼マルチスペクトルカメラ(D社製MSドローンを含む)データを処理する場合に有効である。
  • 提案手法は、分光バンド画像ごとにGCP情報を入力する必要があるため、1つのバンドのGCP情報の入力で済む従来手法(A社の推奨手順)よりもGCP情報入力の手間がかかる。
  • 提案手法は、分光バンドごとに画像ファイルを出力する。したがって、5つの分光画像ファイルを重ね合わせて1ファイルに合体(スタッキング処理)する必要がある。
  • 本成果情報で示す従来手法の位置精度は、A社製SfM/MVSソフトのバージョンアップにともなうMS画像処理アルゴリズムの修正によって改善される可能性がある。

具体的データ

図1 処理手順の比較,図2 撮影高度の異なるマルチスペクトルオルソモザイク画像(撮影日:2021年7月13日)の植生指数の画素レベル比較,図3 処理手法によるバンド間の位置ズレ程度の比較

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(農林水産研究推進事業:育種ビッグデータの整備および情報解析技術を活用した高度育種システムの開発)
  • 研究期間:2021~2021年度
  • 研究担当者:坂本利弘、小川大輔、日浦聡子、岩﨑亘典
  • 発表論文等:Sakamoto T. et al. Photogramm Eng Remote Sens. 88: 323-332