食品と化学工業のつながりもみえる窒素フットプリント評価法、栄養塩拡張産業連関法

要約

農業を含む全産業の窒素利用と産業間の金銭取引を関連づけることにより、各産業の生産・消費により潜在的に環境排出される窒素化合物の総量を評価する手法である。産業部門をまたがる窒素フローを網羅的に可視化でき、産業部門間の連携による窒素利用効率向上策の立案に有用である。

  • キーワード:食料システム、窒素利用効率、サプライチェーン、窒素フットプリント
  • 担当:農業環境研究部門・土壌環境管理研究領域・農業環境情報グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

食料システムは耕種農業や畜産業に加え、食品製造業や食品サービス業など多くの産業と関わる。従来の食料窒素フットプリント評価法は各食品群の生産から消費を個別に捉えるが、食料システム全体としての窒素利用効率向上には食品と各種産業のつながりを捉える定量的手法が必要である。
本研究では、原材料としての窒素の流れ(窒素フロー)と産業間の金銭取引(産業連関)を関係づけることにより、各産業部門の生産に直接・間接に利用される窒素の種類と量、またその生産から消費までの流れ(サプライチェーン)の中での各産業とのつながりを明らかにする手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • 栄養塩拡張産業連関法では、第1ステップとして産業活動に関わる窒素フローを把握する。図1の2011年の例では、本法に基づく日本の窒素フットプリント総量は、1年間に人間の消費に伴って意図的に利用した化学肥料、有機肥料、生物学的窒素固定、天然魚介類、化学工業製品に由来する5種の窒素の総量(2774Gg/年)のことをいう(図1中の産業活動から人間の消費へと流れる窒素)。また、化石燃料エネルギー利用に由来する非意図的窒素利用も参考値として考慮する。
  • 第2ステップとして、各産業部門の生産に伴う詳細な窒素の流れを算出する。各産業部門が利用する窒素とその部門の生産額から「生産額に対する直接の窒素利用量」(窒素需要係数)を求め、次に窒素需要係数と産業連関から、サプライチェーンを通じた「生産額に対する直接・間接の窒素利用量」(窒素強度)を求める。図2の2011年の日本の飲食サービス業の例では、一番右に示した飲食サービス業の100万円の生産に直接投入されるのは、農業、漁業、工業由来の非エネルギー窒素0g-N、化石燃料由来のエネルギー窒素139g-Nであるが、左側に示した供給産業ではより多くの非エネルギー窒素利用がある。つまり、原材料や加工品生産の段階での窒素利用を低減することで、飲食サービスのサプライチェーン全体における窒素利用量を下げられることがわかる。図2中の半円で示した窒素利用量をすべて足したものが、飲食サービス業の窒素強度(非エネルギー窒素16,250g-N/100万円、エネルギー窒素15,880g-N/100万円)である。
  • 第3ステップとして、各産業部門の窒素強度と消費額を乗じると、その部門の窒素フットプリントが求められる。図3の2011年の日本の例では、化学工業とのつながりを示す工業原料由来窒素は、食料関連部門の窒素フットプリントの2~7%を占める(図3)。つまり、化学工業も食料システムの関連産業であると言える。

成果の活用面・留意点

  • 本法を用いた窒素フットプリントは、食料システムに関わる各種産業を通じた窒素フローを網羅的に捉えることができる。これは、一次産業だけでなく、食品製造業や食品サービス業などの関係産業の努力による食料システム全体としての窒素利用効率向上の効果の可視化に貢献する。
  • 本法により、みどりの食料システム戦略による耕畜連携や有機肥料利用の拡大に伴う、各産業の窒素フットプリントに占める再利用窒素の増加割合を定量的に評価することも可能である。
  • 本研究の具体例では輸入相手国の産業部門の窒素強度は、国内の対応する産業部門の窒素強度と同じと仮定しているため、原材料や加工品としての食飼料の輸入については、推計誤差があることに留意が必要である。

具体的データ

図1 食料システムをとりまく日本の窒素フロー(2011年),図2 飲食サービス業の100万円の生産に伴ってサプライチェーンを通じて利用した窒素,図3 産業部門別窒素フットプリント(非エネルギー由来分)の上位20部門(2011年)

その他

  • 予算区分:交付金、文部科学省(科研費 19K20496)
  • 研究期間:2019~2021年度
  • 研究担当者:種田あずさ、林健太郎、江口哲也、森岡涼子、片桐究(東北大)、新藤純子(山梨大名誉教授)、松八重一代(東北大)
  • 発表論文等:Oita A. et al. (2021) Environ. Res. Lett. 16:115010