緑肥景観作物による北日本夏季のセイヨウミツバチ殺虫剤曝露被害低減技術

要約

養蜂場近くに緑肥景観作物の花畑を用意することで、セイヨウミツバチが餌の少なくなる夏季に作物や農地周辺の雑草に訪花して起こる殺虫剤使用に伴う被害を低減できる。

  • キーワード:セイヨウミツバチ、殺虫剤曝露、花資源、RFIDタグ
  • 担当:農業環境研究部門・農業生態系管理研究領域・生物多様性保全・利用グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

セイヨウミツバチは蜂蜜やローヤルゼリーの生産だけではなく、イチゴをはじめとする施設園芸作物の花粉交配などにも広く用いられており、国内外問わず農業生産に重要な役割を果たしている。しかし、餌源となる植物の減少や病気、農薬の使用等の農地管理の変化などの影響を受け、その飼育が年々難しくなっており、病気対策や農薬曝露の回避、養蜂場周辺の餌源確保など総合的な対策が強く求められている。
わが国では、北日本を中心に水田近くの養蜂場で夏季に殺虫剤曝露の影響と思われるセイヨウミツバチの死虫数増加の被害が報告されているが、夏に餌源となる花が減少することと、水田の害虫防除のタイミングが重なることで被害が大きくなると考えられている。餌となる花が夏に不足することはヨーロッパなどでも報告されており、この時期には、作物や農地内外の雑草などの花を多く訪れることがわかっている。そのため、餌不足の夏季に農地で害虫防除の殺虫剤散布が行われると曝露被害がとくに大きくなってしまう。
そこで本研究では、遊休地に緑肥・景観作物を餌源として栽培し、そこにセイヨウミツバチを誘引して農地への飛来を減少させることで、セイヨウミツバチの殺虫剤暴露による被害軽減に役立つかを明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 殺虫剤曝露が生じやすいと考えられる水田近傍に実験用の養蜂場を設置し、そこから約300m離れた遊休地に緑肥・景観作物としても使われるシロガラシを餌源として栽培すると(図1)、シロガラシを利用していた働きバチが多い巣箱ほど、殺虫剤散布日とその2日後までに確認できた各巣箱前の死虫数は少ない結果になり、シロガラシに働きバチを引きつけることで、殺虫剤曝露の影響を低減できる (図2)。
  • 殺虫剤曝露の影響を調査するため水田で殺虫剤を散布する間(24時間)のみ網(働きバチが通り抜けられない約2mmメッシュ程度の防風ネットを使用)で覆い、殺虫剤散布した水田周辺に飛来しないようにした巣箱に比べて、網をかけていない巣箱では近傍の水田で殺虫剤が散布されると急激に死虫数が増加する (図3)。

成果の活用面・留意点

  • 今回の試験では、セイヨウミツバチの巣箱一つに対してどのぐらいの面積の花畑を用意すれば良いかは明らかにできていない。また、今回の試験で殺虫剤が散布されたのはイネの開花期後であったが、イネの花粉もセイヨウミツバチは集めることがわかっているため、イネが開花している時期や、ミツバチが好む雑草の花などが多く水田周辺に咲いている時でも働きバチを誘引できるのか検証が必要である。
  • 今回の技術は北日本(北海道)で試験を行っており、現地で夏季開花の栽培実績があるシロガラシを花資源作物として用いた。北日本以外ではシロガラシを夏季に開花させるのは困難であるため、シロガラシ以外の検討が必要である。
  • こうした検証試験を積み上げていくことで、セイヨウミツバチを殺虫剤曝露から守り、とくに夏季の餌不足を解消できる効果的な花畑の確保が進むと期待される。減農薬栽培や有機栽培の促進とあわせて、必要な時期に花畑を用意することで健全な蜂群育成が可能となり、蜂蜜生産や花粉交配用ミツバチの増殖に貢献できる。
  • 殺虫剤散布した水田周辺に飛来しないように網で覆った巣箱でも死虫は少ない結果であるが、網掛けなしでシロガラシをとくに多く利用していた巣箱(巣箱番号O1やO2)のほうが、死虫数が少ない結果になったことから(図3)、網掛けした間、餌や冷却用の水を取りに行けないため、炎天下においた巣箱が熱などのストレスを受けた可能性がある。

具体的データ

図1 水田近傍の実験用の養蜂場と導入したシロガラシ栽培地の位置関係(イメージ),図2 シロガラシの利用程度と殺虫剤散布後のセイヨウミツバチの死虫数との関係,図3 養蜂場近傍水田での殺虫剤散布前後に巣箱周りで確認できた死虫数の時間変化

その他

  • 予算区分:農林水産省(経営体プロジェクト28補正)
  • 研究期間:2017~2019年度
  • 研究担当者:大久保悟、小路敦、木村澄、森本信生、芳山三喜雄
  • 発表論文等:
    • Okubo S. et al. (2021) Appl. Entomol. Zool. 56:207-215
    • Okubo S. et al. (2020) J. Api. Res. 59:1027-1032