圃場一筆毎の土壌特性が分かるAI-土壌図と土壌調査支援アプリe-土壌図PRO

要約

農研機構が公開してきた既存土壌図を教師データとして、地形・気象・地質等のデータを用いた機械学習で作成したAI-土壌図により、圃場一筆毎の土壌特性が確認できる。また、スマホアプリe-土壌図PROにより今後のAI-土壌図更新に欠かせない土壌調査データを効率的に収集できる。

  • キーワード : AI-土壌図、機械学習、e-土壌図PRO、土壌調査データ
  • 担当 : 農業環境研究部門・土壌環境管理研究領域・土壌資源・管理グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

営農規模拡大や肥料価格高騰に伴い、圃場毎の土壌特性に応じた施肥管理や土づくり実践への需要が高まっている。農研機構「日本土壌インベントリー」で2017年4月から配信しているデジタル農耕地土壌図(既存土壌図)は施肥設計や都道府県が作成する作物栽培指針の基盤データとして活用されている。しかし、既存土壌図の解像度は100 m程度と粗く、また、農地分布状況の変化に応じた土壌図更新は行われてこなかった。そのため、既存土壌図の作成時には農地として利用されていなかった地域が、既存土壌図における土壌情報の空白域(図1)となる等、既存土壌図からは圃場一筆毎の土壌特性を確認することができなかった。したがって、現在の農地分布状況を反映したより高解像度なデジタル土壌図の開発・データ配信が求められている。また、高解像度デジタル土壌図を今後のデータ駆動型農業のデータ基盤として活用していくためには、その土壌図の精度向上や最新性を確保するための取組みが重要であり、データ更新用の土壌調査データの効率的な収集が期待されている。
そこで、本研究では農林水産省が提供している筆ポリゴンデータに収録された全国農地(437万ha)を対象に、高解像度土壌図(AI-土壌図)を開発するとともに、AI-土壌図更新のための高品質な土壌調査データを効率的に収集できるスマホアプリ「e-土壌図PRO」を開発する。

成果の内容・特徴

  • AI-土壌図は、教師あり機械学習(ランダムフォレスト)により作成した解像度10mの予測土壌図である。既存のデジタル土壌図(解像度100m)を教師データとして、10m間隔に土壌の種類名と地質データ(産業総合研究所シームレス地質図)、気象データ(国土交通省)、10mデジタル標高モデル(DEM;国土地理院)、DEMから作成した傾斜度等の地形指標データ、土地利用を示す筆ポリゴンデータ(農林水産省)を抽出した学習用データセットから作成する(図1)。
  • AI-土壌図から圃場一筆毎に分布面積が最大となる土壌の種類を抽出することで、一筆につき一種類の土壌データを付与する(図1)。解像度を一筆単位としたAI-土壌図は、WAGRIから配信している「統合農地データ取得API」にデータ実装して、データ配信を行う(図2)。
  • 「e-土壌図PRO」は、土壌調査支援用のAndroid版アプリである。これまで知識や経験を要した調査地点の地形データ収集や土壌分類名の付与について、緯度経度情報や土壌調査項目の入力値から自動的にそれらデータを取得できる(図3)。
  • 「e-土壌図PRO」で収集した土壌調査データは、農研機構統合データベース上に登録することができ、WEB上でも調査データの編集ができる。
  • AI-土壌図は予測土壌図であるため、「e-土壌図PRO」で収集する土壌調査データは、AI-土壌図の予測精度検証および再学習用データとして利用できる。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 土地利用型作物、露地野菜の営農支援ソフト等を開発しているWAGRI利用会員(図2参照)および公設試の土壌保全担当者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国農地
  • その他 : AI-土壌図データの利用はWAGRI-統合農地データ取得APIの有償利用を前提とする。

具体的データ

図1 AI-土壌図の開発,図2 AI-土壌図のWAGRI統合農地データ取得APIへのデータ実装とデータ活用イメージ,図3 「e-土壌図PRO」土壌調査を支援し、高品質な土壌調査データを効率的に収集するAndroid版アプリケーション

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業、スマート農業技術の開発・実証プロジェクト)
  • 研究期間 : 2020~2022年度
  • 研究担当者 : 高田裕介、早野美智子、森下瑞貴、前島勇治、伊勢裕太
  • 発表論文等 : 高田(2022)土肥誌、93(4):201-205