熱帯水田で実施できるメタン抑制手法

要約

SRI農法(System of Rice Intensification)をベースにしたAWD(Alternate Wetting and Drying)節水灌漑水稲栽培は、常時湛水水田と比べ30%程度のメタン排出量削減効果がある。複数品種、乾期・雨期のいずれの場合にもコメ収量は維持しつつ、節水とメタン削減の両立が可能である。

  • キーワード : SRI農法、AWD、メタン、水田、節水
  • 担当 : 農業環境研究部門・気候変動緩和策研究領域・緩和技術体系化グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

全温室効果ガス排出量の約25%を占めるメタンの主要な排出源の一つが水田である。アジアに広がる水稲作は、急増する人口を支える主食であると同時に重要なメタン排出源でもあるため、コメ収量を維持しつつ、貴重な水資源を活用すると同時にメタン排出削減対策を講じる必要がある。本研究では、栽植密度を下げるSRI農法と田面水位が-15cmを下回らないように繰り返し灌水することで節水効率を向上させるAWD農法の融合により、コメ収量を維持しながらメタン削減および節水を同時に実現する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 本研究の試験地は、インド共和国タミルナドュ州アドゥトゥライにあるタミルナドュ稲研究所水田圃場である。2ヵ年(2016-2017年)の試験の結果によると、AWD水管理を使用したSRI農法とその改良型および常時湛水管理の3種の農法比較により、SRI農法がメタンを含むGHGの大幅削減に効果があり、収量に影響もない。AWD水管理回数を削減しても一定のGHG削減効果がある。
  • 乾季、雨季それぞれの灌漑回数はSRI区(株あたり1本苗)、MSRI区(株あたり2本苗)、常時湛水(CT)区(株あたり3本苗)のそれぞれで乾季は10回、10回、21回であるのに対し、雨季は2回、2回、11回である。したがって維持すべき田面水位が異なるために要求される水量は大幅に異なる。乾季、雨季における常時湛水(CT)を100 %とする水利用量比率はSRI区47.5 %、MSRI区 49.3 %であり、雨季ではSRI区79.4 %、MSRI区79.8 %である。
  • 栽培期間におけるメタンの積算排出量を処理区ごとに比較すると、CT区が高く、SRI区とMSRI区はほぼ同等である。乾季(Kruvai)では、メタン排出削減量は、SRIとMSRIについて常時湛水CTとの比較では、40 %および 55 %(品種ADT43), 42 %および43 %(品種CO51)となる。また、雨季(Thaladi)では、22 %および31 %(品種 ADT46)、25 %および20 %(品種TKM13)となる。

成果の活用面・留意点

  • AWD農法(節水栽培)は国際イネ研究所(IRRI)等によって熱帯アジアでの普及が進められている。AWD農法とSRI農法(疎植)の融合が、収量維持とメタン削減の双方に効果的である。
  • 乾期・雨期ともに水稲作を行う場合に有効な成果であり、乾期に畑作をする地域では、メタン削減効果についてはさらに研究を進める必要がある。

具体的データ

表1 インドにおける稲種もみ使用量、灌漑水量、積算メタン排出量およびCO2-eq温室効果ガス排出量の試算(タミルナドュ州の100万 haにSRIとAWDを適用した場合の営農効果),図1 SRI区、MSRI区、CT区のGHG積算排出量比率(CTを100 %とする)

その他

  • 予算区分 : 環境省(環境研究総合推進費)
  • 研究期間 : 2015~2017年度
  • 研究担当者 : 須藤重人、小野圭介
  • 発表論文等 :
    • Oo A. Z. et al.(2018) Agronomy 8(10):202-219
    • Oo A. Z. et al.(2018) Agric. Ecosyst. Environ. 252:148-158