日本のダイズ品種における収量の遺伝的改良は子実数の減少により停滞している

要約

日本のダイズ品種では、育種による百粒重の増加に伴い、子実数の減少が見られ、収量の変化は無い。米国品種では、育種による百粒重の減少が見られるが、子実数が著しく増加するので、増収している。日本品種の多収化のためには、百粒重と子実数のトレードオフを解決する必要がある。

  • キーワード : 育種、光合成、収量、収量構成要素、ダイズ
  • 担当 : 農業環境研究部門・気候変動適応策研究領域・気象・作物モデルグループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

米国のダイズ収量は近年着実に増加しているが、これには育種による品種の収量の遺伝的改良が貢献している。一方で、日本の収量は停滞している。日本国内の過去の育種によって品種の収量性やその関連形質が改良されてきたかどうかは十分に検討されていない。そこで、本研究では、日本の東北地方とその同緯度で同様な気候帯に位置する米国中西部において1950年代から 2010年代に育成された品種群を対象に、収量、収量構成要素ならびに乾物生産量の基礎となる個葉光合成能力を比較し、両地域の品種群における遺伝的改良の程度を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 米国品種と比較して、日本品種の子実数は少なく、百粒重は大きいが、収量は低い(図1)。日本品種では、育成年が進むと子実数は直線的に減少し、反対に百粒重は直線的に増加するが、収量は増加しない。米国品種では、育成年に伴い収量と子実数は直線的に増加するが、百粒重は減少する。また、米国品種では育成年に伴う総節数および一節莢数の増加や一莢粒数の減少が見られる。日本品種ではこれらの要素の変化は無い。
  • 両品種群において、子実数と百粒重には負の相関係数が見られる(図2)。日本品種では、収量への子実数と百粒重の相対的貢献度(標準偏回帰係数)は同程度であり、百粒重増大と子実数減少に強いトレードオフが存在する。米国品種では、収量への標準偏回帰係数は、百粒重より子実数で高く、新品種の多収化には子実数増加が強く寄与している。
  • 開花期においては、光合成速度や葉面積当たりの窒素含量は両品種群で差は無い(図3)。子実肥大始期においては、米国品種と比較して、日本品種の光合成速度は低く、窒素含量は高い。日本品種では育成年に伴う光合成速度の直線的増加は見られないが、米国品種では直線的な増加が見られる。この増加は窒素含量の増加を伴う。
  • 両品種群で光合成速度と窒素含量の関係には明確な違いが見られる(図4)。米国品種群では光合成速度と窒素含量には直線な関係が存在する。一方、日本品種群では、両者は凸型の二次曲線で回帰され、高い窒素含量の範囲では光合成速度が減少する。
  • 以上のように、米国品種群では過去の育種による収量性や個葉光合成能力の遺伝的改良が見られるが、日本品種群ではそれらの遺伝的改良は停滞している。

成果の活用面・留意点

  • 本成果は国内品種の多収化のための基礎情報を提供する。国内ダイズの用途は豆腐や煮豆等の加工食品であり、外観品質が良い大粒品種が好まれる。この実需ニーズが育種に反映されていると考えられる。国内の新品種では、大粒化が進んでいるが、子実数が減少し、収量性の改良が停滞していることから、小粒化と子実数増加を目指す必要があるかもしれない。
  • 海外の既往研究では、品種の多収化には個葉光合成速度の改良が伴うことが報告されている。国内品種の個葉光合成能力の改良も多収化に必要である。

具体的データ

図1 米国産9品種と日本産9品種における育成年と子実収量(A)、子実数(B)、百粒重(C)、総節数(D)、一節莢数(E)および一莢粒数(F)との関係,図2 米国産9品種と日本産9品種において、収量を目的変数、子実数および百粒重を説明変数とした重回帰分析の結果,図3 米国産9品種と日本産9品種における育成年と光合成速度(A、開花期;B、子実肥大始期)および葉面積当たりの窒素含量(C、開花期;D、子実肥大始期)との関係,図4 米国産9品種と日本産9品種における光合成速度と葉面積当たりの窒素含量との関係

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2016~2020年度
  • 研究担当者 : 熊谷悦史、屋比久貴之、長谷川利拡
  • 発表論文等 :