カドミウム高蓄積遺伝子を集積した新たなファイトレメディエーション専用イネ「ファイレメCD3号」

要約

「ファイレメCD3号」は、カドミウム高蓄積に関する2つの遺伝子を持つことで、土壌からのカドミウム収奪量が既存のカドミウム高蓄積品種より最大2倍程度増加したファイトレメディエーション専用のイネ系統である。この系統の利用により水田土壌から効率よくカドミウムを除去できる。

  • キーワード : カドミウム、ファイトレメディエーション、カドミウム浄化専用イネ品種、遺伝子集積、耐倒伏性、難脱粒性
  • 担当 : 農業環境研究部門・化学物質リスク研究領域・無機化学物質グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

ファイトレメディエーションは、植物が持つ元素吸収能を利用して有害物質を環境中から取り除く、エコフレンドリーな環境修復技術である。農研機構は、カドミウム(Cd)高蓄積イネ品種を用いてCdで汚染された水田土壌からCdを取り除くファイトレメディエーション技術を確立した(農業環境技術研究所:研究成果情報(第26集))。さらにCd高蓄積タイプのインド型品種「ジャルジャン」をベースに、Cd高蓄積の特性は維持したまま、難脱粒性や耐倒伏性等の栽培特性を改良した2つの実用的Cd高蓄積イネ品種(「ファイレメCD1号」及び「ファイレメCD2号」)を開発した(農業環境技術研究所:研究成果情報(第32集)、農研機構農業環境変動研究センター:2020年研究成果情報))。一方で、Cd高蓄積イネのCd集積能をさらに強化すれば、少ない栽培年数で土壌から効率良くCdを取り除くことも可能である。そこで本研究では、Cd蓄積に関わる遺伝子を複数集積したイネ系統を新たに開発し、土壌からCdを取り除くファイトレメディエーション効率の向上を目指す。

成果の内容・特徴

  • 「ファイレメCD3号」は、Cd高蓄積品種「ジャルジャン」が持つOsHMA3機能欠損型遺伝子(根の液胞にCdを輸送する能力が欠損)とCd高蓄積品種「ネパール555」から新たに見つけたCd高蓄積遺伝子座qHCd6(機能未解明)の2つのCd高蓄積遺伝子を、収穫前に倒れにくく(耐倒伏性)、さらに籾が落ちにくい(難脱粒性)特徴を持つ飼料イネ品種「たちすがた」に交配し、DNAマーカーによる選抜で導入したイネ系統である(図1A)。
  • 「ファイレメCD3号」の栽培特性は、「たちすがた」由来の耐倒伏性と難脱粒性を有することから日本での機械化栽培に適する(表1)。また、草姿及び玄米の色・形態から日本の食用品種との目視による識別が容易なため、食用品種への混入防止に役立つ(図1B、C)。
  • 「ファイレメCD3号」は、2つのCd高蓄積遺伝子の集積効果により、機能欠損型のOsHMA3遺伝子のみを有するCd高蓄積品種「長香穀」や「ファイレメCD2号」よりも穂や稲わらのCd濃度が有意に高くなり、本研究で栽培試験を行った比較的土壌Cd濃度が高い2つの試験地において土壌からのCd収奪量は最大で2.1倍高くなる (図2A)。また、植物浄化1作後の作土層の土壌Cd濃度の減少率は20 %に達し(図2B)、比較した2品種よりも、高いCd浄化効率を示す。

成果の活用面・留意点

  • 「ファイレメCD3号」を用いたファイトレメディエーションは「植物による土壌のカドミウム浄化技術確立実証事業実施の手引(第2版)」(2018、農林水産省・農研機構)に紹介されており、詳細な情報は入手可能である。
  • 「ファイレメCD3号」のCd吸収を促進させるため、中干し以降は落水を徹底し、土壌の乾燥が激しい場合のみ走水程度の入水を行う。このような水管理は種子稔性を低下させるが、土壌からのCd収奪量には大きく影響しない。
  • 採種を行う場合は、採種用圃場を設け、食用品種と同様の水管理を行う。耐倒伏性が「コシヒカリ」と同等なため、肥培管理は「コシヒカリ」に準じることを基本とし、倒伏に注意を払う。
  • 本系統を水田転換畑のファイトレメディエーションに活用することで、ダイズやムギなどの畑作物のCd低減にも役立つことが期待される。
  • 本系統は登録品種ではないが、遺伝的に固定が確認された実用系統であり、登録品種と同等の品質を有する。

具体的データ

図1 「ファイレメCD3号」の育成過程(A)、登熟期の草姿(B)、籾と玄米の外観(C),表1 「ファイレメCD3号」の栽培特性とCd濃度,図2 「ファイレメCD3号」のカドミウム蓄積量と土壌カドミウム濃度の推移

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(新農業展開ゲノムプロジェクト:イネ科作物の量的形質遺伝子の同定、レギュラトリーサイエンス研究委託事業:より効率的な土壌浄化を可能にするカドミウム高吸収稲品種の選抜と栽培技術の確立)
  • 研究期間 : 2009~2022年
  • 研究担当者 : 安部匡、伊藤正志(秋田県農試)、高橋竜一(秋田県農試)、本間利光(新潟農総研)、関谷尚紀(長野県農試、現長野県農業大学校)、白尾謙典(熊本農研セ、現熊本県県広域本部上益城市域振興局)、倉俣正人、村上政治、石川覚
  • 発表論文等 :