コメのカドミウム低減のための新規OsNRAMP5アリル

要約

イネのカドミウムとマンガンの輸送体であるOsNRAMP5の337番目のアミノ酸がグルタミン(Q)からリジン(K)に変化したコドンを持つQ337Kアリルは、カドミウム吸収を抑制しつつ、生育に必要なマンガン吸収量を確保することが可能な遺伝子である。

  • キーワード : イネ、カドミウム、マンガン、OsNRAMP5、突然変異
  • 担当 : 農業環境研究部門・化学物質リスク研究領域・無機化学物質グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

イネのOsNRAMP5遺伝子は、必須栄養素であるマンガンだけでなく生育に不要なカドミウム吸収に関わる輸送体タンパク質をコードしている。農研機構が開発した水稲品種「コシヒカリ環1号」はOsNRAMP5の遺伝子機能が欠失しており、この品種を栽培することでコメに含まれるカドミウムを極めて低く抑えることができる。しかし、水田土壌の性質によっては「コシヒカリ環1号」の生育に必要な量のマンガンが不足する恐れがある。マンガン不足は光合成効率の低下やごま葉枯病への罹病性の増加を招き、コメの収量や品質低下につながる可能性がある。そこで、イネの生育に必要なマンガン吸収を担保しながら、コメのカドミウム濃度を低減させる新たなOsNRAMP5遺伝子アリルを見つけ、その機能を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • イネの突然変異処理によって、OsNRAMP5タンパク質を構成する337番目のアミノ酸がグルタミン(Q)からリジン(K)に置換したイネ個体(以下、個体名Q337K)ではカドミウムとマンガンの吸収が緩やかに低下し、地上部の各元素濃度は「コシヒカリ」と「コシヒカリ環1号」の中間程度となる(図1)。
  • マンガンを低濃度に制限した水耕栽培(マンガン濃度は0.1 μM)でも、Q337Kの生育(茎葉部と根の乾物重量)および葉色は通常の「コシヒカリ」と同等である。同栽培条件において、Q337Kの茎葉部のマンガン吸収量はOsNRAMP5遺伝子の機能が完全欠失した「コシヒカリ環1号」よりも明らかに高い(図2)。
  • カドミウム濃度が高い土壌(1.21 mg/kg)を用いた栽培試験では、Q337Kの玄米中カドミウム濃度は「コシヒカリ環1号」よりは高くなるが、「コシヒカリ」の半分程度まで抑えられる。稲わら中のマンガン濃度も同様の傾向であるが、「コシヒカリ環1号」よりも高いことはマンガン供給性が低い土壌でも「コシヒカリ」と同等の生育を確保するための重要なポイントである(図3)。
  • 337番目のグルタミンを他の必須アミノ酸のコドンに置き換えたOsNRAMP5遺伝子を酵母の変異株(Δycf1Δsmf1株)に導入し、カドミウムやマンガンの輸送活性を生育への影響から評価すると、アミノ酸の種類によってカドミウムとマンガンの輸送活性が大きく変わることがわかる(図4)。それゆえ、OsNRAMP5の337番目の位置は、カドミウムとマンガン輸送の調節のキーとなる部位である。

成果の活用面・留意点

  • カドミウム極低吸収性品種「コシヒカリ環1号」の栽培でマンガン不足が懸念される水田において、Q337Kの特性を持たせたイネ品種を利用することで通常の生育や収量を確保しながら、コメのカドミウム濃度を減らすことが期待できる。
  • OsNRAMP5-Q337K遺伝子を検出できるDNAマーカーを活用することで、「コシヒカリ」以外の品種にもこの形質を付与することが可能である。
  • Q337Kによる玄米のカドミウム低減効果は「コシヒカリ環1号」ほど高くないが、水田土壌の性質や栽培管理方法に応じて、カドミウム低吸収品種を使い分けることが可能である。

具体的データ

図1 Q337Kの変異と幼植物におけるカドミウム・マンガン吸収性,図2 マンガン濃度を制限した幼植物栽培試験での生育の比較,図3 カドミウム濃度が高い土壌での栽培試験結果,図4 OsNRAMP5の337番目のアミノ酸(グルタミン)を置換した場合のカドミウム、マンガン輸送の評価

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)
  • 研究期間 : 2018~2021年度
  • 研究担当者 : 倉俣正人、安部匡、石川覚、杉本和彦
  • 発表論文等 :
    • Kuramata M. et al. (2022) J. Exp. Bot. 73:6475-6489
    • 石川ら「重金属輸送を自在に制御する方法、並びにカドミウム及びマンガン吸収が制御された植物」特開2022-29767(2022年2月18日)