カキの受粉に野生のコマルハナバチが大きく貢献

要約

カキの花粉媒介には野生昆虫のコマルハナバチが全国的に大きく貢献している。カキ「富有」の着果率は本種が1回でも雌花に訪花すると大幅に向上し、複数回の訪花によってさらに高まる。「富有」の安定した着果のためには、本種やセイヨウミツバチによる複数回の訪花が効果的である。

  • キーワード : カキ、花粉媒介昆虫、コマルハナバチ、セイヨウミツバチ
  • 担当 : 農業環境研究部門・農業生態系管理研究領域・生物多様性保全・利用グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

カキの花粉媒介昆虫はミツバチ類と従来から考えられてきたため、多くのカキ園では受粉を促進する目的で開花期にセイヨウミツバチの巣箱が導入されている。一方、カキにはコマルハナバチを含む野生ハナバチ類の訪花も報告されている。しかし、全国的な調査は実施されておらず、わが国におけるカキの花粉媒介昆虫相とそれらの役割について全体像は不明である。
そこで、本研究では全国各地のカキ園で訪花昆虫を調査する。また、主要な甘柿品種である「富有」を用いて、訪花昆虫がめしべに付着させる花粉数や、受粉と着果率の関係について調べることにより、「富有」の安定した着果に必要な訪花回数を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 飼養昆虫のセイヨウミツバチに加え、野生昆虫のコマルハナバチが全国的に主要なカキの訪花昆虫である(図1)。
  • セイヨウミツバチとコマルハナバチの花粉媒介効率は同等である。両種が1回の訪花でめしべに付着させる花粉数は、調査園や年次による変動するが、いずれもおよそ10~30粒である。
  • 「富有」が十分に着果するためには、セイヨウミツバチやコマルハナバチによる複数回の訪花が効果的である(図2)。コマルハナバチが雌花に1回だけ訪花した場合の着果率は約50%で、雌花を袋で覆った無受粉区と比較すると高い着果率である。雌花を自由に訪花できる自然受粉区ではさらに着果率が高まる。
  • 「富有」では、めしべに約27粒の花粉が付着すると、理論上の着果率が50%である(図3)。この値はめしべに付着した花粉数と着果率の関係から推定したもので、コマルハナバチやセイヨウミツバチが1回訪花したときにめしべに付着させる花粉数とほぼ一致する。また、80%以上の着果率を得るには、計算上およそ70粒以上の花粉がめしべに付着する必要がある。

成果の活用面・留意点

  • カキ園の訪花昆虫を調査してコマルハナバチの頻繁な訪花が認められた場合には、セイヨウミツバチの巣箱を導入しなくても十分な着果率が期待できる。
  • 訪花昆虫の飛来量は天候に左右されること、特に野生訪花昆虫は発生量の年次間差が大きいことに留意する必要がある。セイヨウミツバチの巣箱なしでの栽培に切り替えたい場合は、訪花昆虫の飛来量を事前に数年間は調査することが望ましい。
  • 2022年3月に農研機構が公表したマニュアル「果樹・果菜類の受粉を助ける花粉媒介昆虫調査マニュアル 増補改訂版」に、カキを含む6種類の果樹・果菜について、花粉媒介昆虫の調査方法や主要な訪花昆虫の写真等を掲載している。このマニュアルを利用することで、経験の少ない方でも簡単に花粉媒介昆虫の訪花状況を調査できる。

具体的データ

図1 カキの雌花における訪花昆虫の種群,図2 受粉が着果率に及ぼす効果,図3 「富有」のめしべに付着した花粉数と着果率

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業:農業における花粉媒介昆虫等の積極的利活用技術の開発)
  • 研究期間 : 2018~2021年度
  • 研究担当者 : 加茂綱嗣、日下石碧、井上広光、岸茂樹、山本隼佑(島根県農技セ)、澤村信生(島根県農技セ)、中村祥子(森林総研)
  • 発表論文等 : Kamo T. et al. (2022) Appl. Entomol. Zool. 57:237-248