要約
政府による農業分野への研究開発投資により期待される開発途上国での将来のトウモロコシ収量の伸びが気候変動により鈍るおそれがある。気温上昇+2.4°Cシナリオの収量増加率は+1.7°Cシナリオの半分に留まると予測され、将来の収量増加には気候緩和が不可欠である。
- キーワード : 気候変動、トウモロコシ、開発途上国
- 担当 : 農業環境研究部門・気候変動適応策研究領域・作物影響評価・適応グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
世界の人口は今世紀半ばに97億人に達すると見込まれており、収量の増加が今後の食料需要を支える鍵となる。各国政府などの農業研究開発投資により収量は増加してきたが、気候変動が収量の伸びを鈍化させている可能性が近年指摘されている。そこで、開発途上国の主食の一つであり、気候変動の影響が主要穀物の中で特に大きいと懸念されているトウモロコシを対象に、農業研究開発投資による収量増加が気候変動の進行で受ける影響を予測する。
成果の内容・特徴
- 気候変動の緩和が進むことで気温の上昇が抑えられる+1.7°Cシナリオでは農業研究開発投資に応じて収量の増加が続くものの、気候変動が緩和されず気温が大きく上昇する+2.4°Cシナリオでは今世紀半ばに収量の伸びは頭打ちになるとの予測結果である(図1)。この傾向は低所得国で特に顕著である。+1.7°Cと+2.4°Cはそれぞれ温室効果ガスの低排出シナリオ(SSP126)と高排出シナリオ(SSP585)における、工業化以前(1850~1900年)に対する今世紀半ば(2041~2060年)の世界の平均気温変化である(2つの気候モデルによる予測の平均)。
- 低所得国では、高所得国や中所得国に比べて、将来の農業研究開発投資額あたりの収量の伸びの推計値が大きい傾向が示されている。これは現在の収量水準が低く、高・中所得国で既に使用されている増収技術が今後普及する余地が大きいためである。2つの気候変動シナリオを比較すると、低所得国では+2.4°Cシナリオでの農業研究開発投資10億ドルあたりの収量の伸びは15.6%(当該所得水準に区分される複数の国の推計値の中央値)と推計され、+1.7°Cシナリオでの27.2%の約半分に相当するとの結果である(図2)。一方、高所得国での収量の伸びは+2.4°Cシナリオでは0.6%、+1.7°Cシナリオでは1.0%との結果である。
- 本成果は、増加が著しい開発途上国の人口を養うために農業研究開発投資の増収効果を維持・向上することがより求められる今後において、気候変動の緩和が不可欠であることを示す。
成果の活用面・留意点
- この予測は、今後、数年間にわたり、気候変動への適応技術の開発や、開発途上国の適応支援、世界の温室効果ガスの排出削減等を巡る施策決定の場において基盤情報として活用される。
- 今回の予測では、既に収量が高い高所得国の収量をさらに増加させる技術の将来シナリオについては考慮していない。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 環境省(環境研究総合推進費)
- 研究期間 : 2020~2022年度
- 研究担当者 : 飯泉仁之直、吉田龍平(福島大)
- 発表論文等 : Yoshida R. and Iizumi T. (2023) Environ. Res. Lett. 18:044026