米国産トウモロコシ・大豆収量を早期予測するための衛星リモートセンシング技術

要約

高頻度観測衛星センサデータの時系列解析により、米国のトウモロコシ・大豆の作柄マップを作成し、収穫量を早期予測する技術である。世界のどこよりも早く、詳細な豊作・不作領域および収量の予測を開始し、10月時点で収穫量を誤差5%未満の精度で予測することができる。

  • キーワード : 作物生育ステージ把握手法、早期作物分類法、単収予測手法、MODIS、機械学習
  • 担当 : 農業環境研究部門・土壌環境管理研究領域・農業環境情報グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

2022年度の日本の食料自給率は、カロリーベースで38%、生産額ベースで58%と、先進7か国の中で最も低い水準にある。特に、畜産業・食品産業の原料資材(家畜飼料・食用油・でんぷん等)として広く利用されるトウモロコシと大豆は、その9割以上を海外からの輸入に依存している。近年、国際的な食料需要の増加・頻発する異常気象や紛争による生産量の低下・穀物価格の急騰など、日本の食料供給を不安定化させる様々な問題が顕在化しつつあり、不測の事態に備えた輸入リスクの監視体制の強化が求められている。そこで、本研究では、日本の主なトウモロコシ・大豆の輸入先である米国を研究対象に選定し、高頻度観測衛星データを利用することにより、世界のどこよりも早く、米国産トウモロコシ・大豆の収量を予測することができる衛星リモートセンシング技術を開発し、その予測精度を時期別に検証する。

成果の内容・特徴

  • 本技術は、作物生育ステージ把握手法、早期作物分類法、機械学習型の単収予測手法から構成される。本技術を用いることで、毎年8月3日頃から米国産トウモロコシ・大豆の総収穫量を予測することができる(図1、表1)。
  • 時系列植生指数を解析することでトウモロコシ・大豆の発芽日および作付場所を推定する。そして、栄養成長期(収穫の2~3カ月前)の植生指数および灌漑面積率等を説明変数とする機械学習型の予測式を用いて、郡~州レベルの単位面積当たりの収量(単収)を予測する(図2)。
  • 過去5年間の平均値に対する単収予測値の偏差割合を計算することで、豊作・不作領域を可視化した作柄マップを作成する(図3)。
  • 2018~2022年を対象にした予測シミュレーション結果によると、国レベルの収穫量の予測精度は、衛星データの観測期間が長くなるにつれ向上し、10月時点で誤差5%未満である(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 本技術を用いることで、米国産トウモロコシ・大豆の収量・作柄を準リアルタイムで予測・可視化することが可能になり、不測の事態に備えた早期警戒・監視に活用できる。
  • 収穫量の計算に用いる作付面積は、予測を行うタイミングで公表済みとなっている米国農務省の速報値を利用する。例:「8月3日時点の予測収穫量」は、「衛星による単収予測値」に「USDAの6月末に公表済みの作付面積情報」を掛け合わせることで算出する。
  • 米国農務省も8月から毎月中旬に国・州レベルの収穫量の予測速報値を公表している。時期によっては、本技術のほうが米国農務省よりも誤差の少ない予測をしていた場合もあるが、常に米国農務省よりも予測精度が優れているわけではない。

具体的データ

図1 本技術による予測と米国農務省による速報時期のタイミングと予測スケールの比較,図2 本技術による州レベル単収予測値と統計値との比較,表1 本技術と米国農務省による国レベルの予測収穫量のパーセント誤差(%)の比較,図3 本技術と米国農務省速報値による郡レベル作柄(豊作・不作)予測マップの比較

その他