要約
気象要因などによる収量の年次変動の幅の大きさ(=変動リスク)を見える化するWEBアプリケーションである。品目別・都道府県別の変動リスクの見える化と、栽培品目や栽培地域の分散による変動リスク低減対策の効果の見える化が可能である。
- キーワード : リスクマネジメント、収量変動リスク、作物統計調査、リスク分散
- 担当 : 農業環境研究部門・土壌環境管理研究領域・農業環境情報グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
農業は長期予測の難しい気候条件に強く依存しており、自然災害など様々なリスクに直面している。気象要因などによる収量の年次変動に対するリスクマネジメントの手法として、品種や技術的な対策の他に複数品目の栽培によるリスクの分散や気候条件の異なる土地での栽培によるリスクの分散がある。しかしながら、どの地域のどの品目でどの程度の収量変動リスクがあるのか、どの地域でどの品目を組み合わせるとリスク分散効果はどれくらいか、という大規模な解析がこれまで存在しなかった。そこで本研究は、農林水産省による作物統計の長期データを用いて、47都道府県における160品目の収量変動リスクを定量的に解析する。さらにその結果を用いて、品目別・都道府県別の年次変動リスクと、栽培品目や栽培地域の分散によるリスク低減対策の効果を見える化するアプリケーションを開発する。
成果の内容・特徴
- 本システムは、都道府県と品目を選択することによりその都道府県でその品目を栽培した場合のリスク指標を表示し、さらに組み合わせる品目や都道府県を選択することで、栽培品目や栽培地域の分散によるリスク低減対策の効果を表示するWEBアプリケーションである(図1)。ブラウザ上で動作するため専用のアプリをインストールする必要は無く、PC・スマホ・タブレットいずれからでも利用できる。
- 農林水産省による作物統計から、1985年以降の47都道府県における160品目の収量データを整理して搭載している。各年の収量を平年収量で割ることで平年を100とする作況指数を計算し、この作況指数の平均値と標準偏差をリスク指標としている。平均値は長期トレンドを示す指標であり、100を超えている場合は収量が平年値を上回り続けて上昇トレンドを描いていることを示す。標準偏差は年次変動の幅の大きさを示す指標であり、大きいほど毎年の変動が大きく、見込まれる収量が得られないリスクが高い状態を示す。
- 茨城県における水稲栽培の事例を示す。まず10aあたりの収量の年変動や、作況指数の年変動、リスク指標としての作況指数の平均値と標準偏差が示される(図2)。次に各気象要因との相関関係が示され、作況指数がどの気象要因に影響を受けるかを知ることができる(図3)。また、選択した都道府県が全都道府県の中で収量やリスクの観点でどこに位置付くかの情報も示される。
- 茨城県におけるかんしょ・さといもの組み合わせによるリスク分散の事例を図4に示す。この場合、かんしょを65%・さといもを35%の面積で栽培したときに標準偏差は最小となる。それぞれの作況指数は逆相関の関係にあるため、組み合わせると合計収量の年次変動は少なくなる。
成果の活用面・留意点
- 本システムは営農計画策定時に栽培品目や栽培地域の選定の判断材料として活用可能である。自身の地域で栽培している品目のリスクを知り、それを許容可能なレベルに抑えるための対策を考えることができる。
- 都道府県レベルのおおまかな解析であり、市町村レベルの差や栽培品種、栽培条件なども混ざった状態のデータであるため、さらに地域のデータを用いた細かい解析も必要な場合がある。また、将来の変動は過去の変動を反映するという仮定の下での活用となるが、技術の進歩や気候変動などで変動のパターンは変わる可能性がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、環境省(環境研究総合推進費)
- 研究期間 : 2020~2023年度
- 研究担当者 : 永井孝志
- 発表論文等 : 永井(2023)農業情報研究、31:120-130