酸性デタージェント可溶有機物量による有機質資材のヒ素溶出促進ポテンシャルの評価

要約

土壌に施用した有機質資材の酸性デタージェント可溶有機物含量が多いほど、湛水後に土壌還元が速やかに進行してヒ素の溶出量が増加する。酸性デタージェント可溶有機物含量は、水田土壌からのヒ素溶出も考慮した資材選定のための指標になると期待される。

  • キーワード : 水田土壌、酸化還元、ヒ素溶出、有機質資材、酸性デタージェント抽出
  • 担当 : 農業環境研究部門・化学物質リスク研究領域・無機化学物質グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

水田土壌から水に溶け出したヒ素は、イネに吸収されて一部が可食部であるコメに蓄積する。有機質資材の施用は土壌からのヒ素溶出を促進することがあり、慎重に資材を選択することが求められる。しかし、現状では、土壌ヒ素の溶出を促進するポテンシャル(ヒ素溶出ポテンシャル)を推定する方法がなく、ヒ素溶出の増加を防ぐ観点から望ましい/避けるべき資材を判断できない。そこで、本研究では、水田から採取した低地土や黒ボク土に多種多様な有機質資材を添加し、水田を模した湛水条件で長期間培養した際のヒ素の溶出を明らかにする。その結果と資材の様々な特性との関係を調査し、ヒ素溶出ポテンシャルを資材間で比較するための指標を提示する。

成果の内容・特徴

  • 本研究の結果から、有機質資材の特性のうち「酸性デタージェント可溶有機物(ADSOM)」含量が資材施用によるヒ素溶出ポテンシャルの優れた指標となるといえる。
  • 実験に使用した有機質資材を表1に示す。堆肥や発酵家畜ふん、未分解植物体など多種多様な資材を含む。なお、資材添加に由来するヒ素の量は微量であり実験結果には影響しないと考えられる。
  • 発酵鶏ふん・豚ぷんや未分解植物体(稲わらや緑肥など)はADSOMが多く、堆肥類はADSOMが少ない資材が多い傾向がある。
  • 資材のADSOM含量とヒ素溶出促進率には、極めて強い正の順位相関が認められる(図1)。すなわち、ADSOMが多い資材ほど土壌のヒ素溶出を促進する。これは、ADSOMが土壌微生物の呼吸に利用され、ヒ素が溶出しやすい還元的な土壌条件になるためである。
  • 有機質資材のヒ素溶出促進率の順位は、性質が大きく異なる土壌(低地土、黒ボク土)の間でも概ね一致する(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 有機質資材の施用によるヒ素溶出促進率や促進量は、土壌によって大きく異なり(図1、2)、本手法による推定はできない。
  • 本試験では、有機質資材の単位重量当たりのヒ素溶出ポテンシャルを相互比較するため、添加量はすべて共通(乾物相当量として土壌重量の0.5%)にしている。ADSOM含量が大きい資材も、施用量が少なければ土壌ヒ素の溶出は相応に小さいと考えられる。
  • ADSOMの測定はやや煩雑な手順が必要になるが、近赤外分光法を利用した迅速法やJAや普及センターで分析できる簡易法も開発されている。
  • 本成果は、イネの栽培を伴わない湛水土壌培養試験により得られたものである。有機質資材の施用がコメ中ヒ素濃度に与える影響については今後詳細に検討する予定である。

具体的データ

表1 使用した有機質資材の一覧,図1 有機質資材の酸性デタージェント可溶有機物(ADSOM)含量と施用した土壌からのヒ素溶出促進率との関係,図2 各種有機質資材を添加した土壌から湛水培養により溶出したヒ素の濃度(溶存ヒ素濃度)

その他

  • 予算区分 : 文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2019~2022年度
  • 研究担当者 : 須田碧海、山口紀子、馬場浩司、櫻井玄、古屋愛珠
  • 発表論文等 : Suda A. et al. (2023) Sci. Rep. 13:217