要約
カドミウム低吸収性水稲品種は、易還元性マンガン濃度が50mg/kgを下回る土壌で栽培したときに、ごま葉枯病が発生しやすい。マンガン質肥料をクエン酸可溶性の酸化マンガン(MnO)量で、15kg~30kg/10aを栽培前に土壌に施用することで、ごま葉枯病の発生は軽減する。
- キーワード : コシヒカリ環1号、ごま葉枯病、易還元性マンガン濃度、鉱さいマンガン肥料、防止策
- 担当 : 農業環境研究部門・化学物質リスク研究領域・無機化学物質グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
農林水産省が発行した「コメ中のカドミウム低減のための実施指針」において、カドミウム低吸収性品種の利用は主要な低減対策に位置づけられている。そのため、「コシヒカリ環1号」をベースに、新たなカドミウム低吸収性水稲品種の育成が日本各地で実施されている。一方、これら品種はカドミウム以外にもイネにとって必須元素であるマンガンの吸収が抑制されているため、特に砂質土壌等のマンガンが不足しやすい土壌で栽培したときに、ごま葉枯病の発生が確認されている。
そこで、本研究ではカドミウム低吸収性水稲品種のごま葉枯病発生要因を土壌の可給性マンガン濃度やイネの茎葉マンガン濃度から解析し、マンガンを多く含む化学肥料による予防・軽減策をマニュアルとして提示する。
成果の内容・特徴
- カドミウム低吸収性水稲品種のごま葉枯病発症リスクは、土壌の易還元性マンガン濃度を測定することで診断できる(図1)。ヒドロキノンによって抽出される土壌の易還元性マンガン濃度が50mg/kgを下回ると、ごま葉枯病の発症リスクが高まる。
- 肥効が緩やかなクエン酸可溶性(く溶性)マンガンを含む肥料(マンガン質肥料)を酸化マンガン(MnO)量換算で15kg~30kg/10a、基肥として施用することで、カドミウム低吸収性品種や系統の茎葉部に発症するごま葉枯病を減らすことができる(図2)。
- マンガン質肥料によるごま葉枯病発生抑制は、茎葉のマンガン濃度が上昇したことに起因する(図3)。
- ごま葉枯病対策に用いるマンガン質肥料は、土壌への養分供給も兼ねて副成分としてケイ酸や鉄、カルシウムなどを含む鉱さいマンガン肥料を推奨する。
成果の活用面・留意点
- マンガン質肥料は一時的な予防・軽減対策であり、カドミウム低吸収性水稲品種のごま葉枯病を完全に抑えるものではない。そのため、被害わらをすきこまないなど、病原菌をできる限りほ場から排除し、土作りを通して稲体の健全性を確保することに努める。
- 種子消毒の徹底やほ場における農薬防除も有用な手段である(下記参考資料)。特にpHが6.0以上の土壌は肥料からマンガンが溶出されにくいので、農薬との併用を検討する。
(参考資料)イネごま葉枯病の発生生態と防除対策(新潟県農林水産部経営普及課、2015年3月)
- マンガン質肥料の効果は土壌の性質にもよるが、3~5年程度の持続性がある。そのため、3~5年毎に易還元性マンガン濃度を測定し、50mg/kgを下回るようであればマンガン質肥料を追加し、継続的にごま葉枯病の発生を予防する。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(イノベーション創出強化研究推進事業)
- 研究期間 : 2018~2022年度
- 研究担当者 : 石川覚、須田碧海、安部匡、倉俣正人、牧野知之(東北大)、中田均(富山県農総セ)、淺木日央里(富山県農総セ)、松下みどり(千葉県農総セ)、太田黒駿(千葉県農総セ)、西川英輝(千葉県農総セ)、大内昭彦(千葉県農総セ)
- 発表論文等 :
- Suda A. et al. (2021) Soil Sci. Plant Nutr. 67:585-593
- 農研機構(2024)「カドミウム低吸収性水稲品種のごま葉枯病対策に向けた土壌管理マニュアル―マンガン質肥料を用いた防止策― Ver.1.0(配布者限定版)」