日本には毎年何種の外来植物が侵入していたか開国以降約150年間の推移を解明

要約

日本に新規に侵入した外来植物の種数は、1900年までは年間5種以下、1950年代後半には16種、1991-2000年は平均で13種と推定され、侵入ペースは高止まりしている。本情報は、生物多様性や農業等に被害をもたらしうる外来植物の侵入削減目標を決定する際に活用できる。

  • キーワード : 外来種、生物多様性、農林水産業、国際目標、侵入トレンド
  • 担当 : 農業環境研究部門・農業生態系管理研究領域・生物多様性保全・利用グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

人や物の国際的な移動の増加に伴い、日本を含む世界各地で外来種の導入と定着(これらを包括して「侵入」と呼ぶ)が進んでいる。外来種の中には、生物多様性や農林水産業、人の健康などに大きな被害をもたらすもの(侵略的外来種)がある。こうした種がさらに侵入することを防止するため、2030年までの世界の生物多様性保全目標を定めた「昆明・モントリオール生物多様性枠組」で、「侵略的外来種の導入率及び定着率を50%以上削減する」という数値目標が掲げられている。本目標の達成のためには、現在までに、いつ、どれ位の種が侵入したのかを把握し、数年以内に減らすべき侵入種数を見定めることが重要である。
日本では、維管束植物について、鎖国が終わった江戸末期以来侵入種数が増え続けていることが確認されている。しかし、何年に何種の外来植物が侵入したのか、また近年は何種が侵入しているのかなど、削減目標を設定する際に参照できる侵入のペースに関する情報はこれまで得られていない。
そこで本研究では、国外から人為的に持ち込まれた外来維管束植物をリスト化し、それぞれの種の国内初確認年のデータを図鑑や標本等から収集して、開国直前の1845年から2000年までの日本における外来植物の年間新規侵入種数の推移を解析する。外来植物は、産業利用などの用途で意図的に持ち込まれる場合もあれば、輸入物などに付着あるいは混入して気づかないうちに(非意図的に)入り込む場合もある。このことをふまえ、各種の導入経路を図鑑や文献などから調べた上で、年間新規侵入種数の推移を、全ての種(外来植物全体)、意図的に持ち込まれた種、非意図的に入り込んだ種のそれぞれについて明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 国際貿易の発展や戦後の飛躍的な経済成長を経験した1900年から2000年までの100年間で、日本における外来植物全体の累積侵入種数は、64種から1,353種へと大きく増加している(図1左)。
  • 年間新規侵入種数は、1900年まで5種以下だったが、1950年代後半には16種に達したと推定される(図1右)。1961年以降、年間新規侵入種数は微減傾向であるものの、1991年から2000年までの10年間の平均値は13種と依然高い値に留まる。
  • 導入経路別にみると、経路が不明な種の侵入が最も多く、1991年から2000年までの平均値は年間9種である(図2)。導入経路がわかるもので比較すると、意図的な持ち込みによる年あたりの新規侵入種数は、調査対象期間を通じて非意図的な入り込みによるものよりも多い。

成果の活用面・留意点

  • 推定された年間新規侵入種数は、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の達成に向けて、行政等が、問題となりうる外来植物の新規侵入種数を向こう数年間で何種減らすか、具体的な削減目標を設定する際にベンチマークとして活用できる。年間新規侵入種数の推移をもとに、いつの年代を基準として50%削減とするかを検討することもできる。
  • 経路別の新規侵入種数をもとに、どの導入経路から管理を行うかを判断することができる。ただし、現時点では経路不明種が多いため、経路間の違いは暫定的なものであることに注意する。
  • 初確認年が不明の種が240種以上あったことから、実際に日本に侵入した外来植物種数は本研究で示されたよりも多いと考えられる。

具体的データ

図1 外来植物全体の累積侵入種数(左)と年間新規侵入種数の推移(右)の推定,図2 意図的経路で持ち込まれた種、非意図的経路で入り込んだ種、導入経路が不明の種の年間新規侵入数の推移の推定

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2019~2023年度
  • 研究担当者 : 江川知花、小山明日香(森林総研)
  • 発表論文等 : Egawa C. and Koyama A. (2023) NeoBiota 83:179-196