日本温室効果ガスインベントリのための農地への有機質肥料施用のN2O排出係数

要約

日本の農地への有機質肥料施用による一酸化二窒素(N2O)排出係数(施用窒素量に対するN2O-N発生率)を算定した結果、牛糞堆肥およびスラリーは0.39%、豚糞堆肥は0.70%、鶏糞堆肥は0.83%、下水汚泥肥料およびその他有機質肥料は1.16%である。

  • キーワード : 温室効果ガス、一酸化二窒素、堆肥、有機質肥料
  • 担当 : 農業環境研究部門・気候変動緩和策研究領域・革新的循環機能開発グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

従来の日本国温室効果ガスインベントリ報告書においては、農地への有機質肥料施用による一酸化二窒素(N2O)排出係数(施用窒素量に対するN2O-N発生率)の設定がなかった。そのため、有機質肥料施用によるN2O排出量の算定には、化学肥料に対して設定されたN2O排出係数(水田は0.31%、茶園は2.9%、その他作物は0.62%)が用いられていた。しかしながら、日本の農地における有機質肥料の推定施用窒素量は442ktN(2022年)で、化学肥料の施用窒素量375ktN(2022年)よりも多く、そのN2O排出量の算定に無視できない不確実性があることから、有機質肥料のN2O排出係数が必要とされている。
そこで、本研究では日本の農地への有機質肥料施用のN2O排出係数を明らかにするため、全国の12地点での実証試験の結果に、国内の既往文献の結果を加えて統計解析することによりN2O排出係数の算定を行う。

成果の内容・特徴

  • 水田および茶園をのぞく「その他作物」に関する全国の実証試験および既往文献の実測値の総数は29地点404データ(無窒素区および対照区である化学肥料区を含む)であった(図1)。これらのデータをもとに日本の農地への有機質肥料施用によるN2O排出係数を算定した結果、牛糞堆肥およびスラリーは0.39%(2.5~97.5パーセンタイルは0.00%~1.62%)、豚糞堆肥は0.70%(同0.02%~2.45%)、鶏糞堆肥は0.83%(同0.09%~3.46%)、下水汚泥肥料およびその他有機質肥料は1.16%(同0.41%~3.03%)である(図2)。なお、水田および茶園についてはデータがほとんどないために解析から除外したため、当該カテゴリの有機質肥料の排出係数の見直しは行わない。
  • 本研究により算定された有機質肥料の施用によるN2O排出係数は、日本各地の気候および土壌の影響を反映した実測値に基づいて算定されたものであり、日本の温室効果ガスインベントリにおいては2019改良IPCCガイドラインにおける有機質肥料の施用のデフォルト値(湿潤気候の0.6%)を用いるよりも適切である。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 日本国温室効果ガスインベントリ報告書。
  • 普及予定地域 : 日本全域。
  • その他 : これらの成果は日本国温室効果ガスインベントリ報告書(2024)に採用されたことから、国連気候変動枠組み条約に基づく日本の温室効果ガスインベントリの算定に貢献するものである。
    日本国温室効果ガスインベントリ報告書(2024) 温室効果ガスインベントリオフィス(編)、環境省地球環境局総務課脱炭素社会移行推進室(監修)

具体的データ

図1 実証試験地点および既往文献の測定地点,図2 各有機質肥料のN2O排出係数

その他

  • 予算区分 : 交付金、その他外部資金(農地土壌炭素貯留等基礎調査事業)
  • 研究期間 : 2010~2023年度
  • 研究担当者 : 秋山博子、佐野智人、仁科一哉、須藤重人、大浦典子、藤森美帆、上薗一郎(鹿児島県農総セ)、矢野真二(山形県農総セ)、大越聡(福島県農総セ)、藤田裕(茨城県農総セ)、白鳥豊(新潟県農総研)、辻正樹(愛知県農総試)、蓮川博之(滋賀県農技セ)、鈴江康文(徳島県農総セ)、山田寧直(長崎県農技セ)、水上浩之(熊本県農研セ)、松本武彦(道総研、現:秋田県立大)、八木一行
  • 発表論文等 : Akiyama H. et al. (2023) Science of the Total Environment 864:161088