要約
水田からのメタン排出量は、泡(バブリング)による排出量が温度に伴って変化するため日変動する。午後より午前中で温度と排出量との間に明瞭な関係が得られるため、時間をずらしながら多点観測する場合、午前中に観測して温度で補正することが有効である。
- キーワード : 温室効果ガス、メタン(CH4)、イネ、温度依存性、観測手法
- 担当 : 農業環境研究部門・気候変動緩和策研究領域・革新的循環機能開発グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
メタンは水田から排出される主要な温室効果ガスである。メタン排出量は気温や地温の変化に伴って日変動するが、その程度やメカニズムは明確に解明されていない。多くの条件間(処理区、イネ品種など)で比較試験を行う際は、時刻をずらしながら数時間にわたって測定を行うことが多いため、排出量の日変動は、結果の解釈に多くの不確実性をもたらす。メタンはイネの通気組織を通じて大気に排出されるほか、突発的に上昇する気泡(バブリング)によっても排出される。本研究では、近年開発した経路別メタン排出量の迅速な評価法を用いることで日変動の要因を解明し、多品種・多条件比較に適した観測手法を明らかにする。
成果の内容・特徴
- メタン排出量の日変動はイネの生育後期(生殖成長期後半)以降において顕著である。幼穂形成期(生殖成長期開始時点)では日変動は見られないが、出穂期になると大きな変動が現れた(図1)。出穂期ではバブリングの寄与が大きく、その排出量が大きな日変動を示すことから全体(イネ経由+バブリング経路)として大きな日変動を示す。逆に、幼穂形成期ではバブリング排出量が少ないため、全体の排出量にも大きな日変動は見られない。
- バブリング排出量は気温に依存するが、その関係は午前と午後で異なる。午前中は比較的単純かつ明瞭な関係が見られ、気温の上昇とともに線形的に増加する。一方、午後に気温上昇が小さくなると急激に減少し、その後は気温低下に伴って緩やかに減少する(図2)。
- 本成果は、水田メタン排出量の現場観測において、バブリング排出量とその強い温度依存性に留意すべきであることを示すものである。イネ生育後期の日中の温度上昇が顕著な条件下で、長時間にわたって多点観測を必要とする比較試験を行う場合、午前中に測定すること、および、温度と排出量の関係に基づいて実測排出量を温度補正することが推奨される。これにより、日変動の影響によるデータのばらつきを排除でき、より正確な比較が可能となる。
成果の活用面・留意点
- メタン排出量の補正は、実測した温度(気温、水温あるいは表層の地温)と排出量との線形関係を使って行う。経路別の排出量測定が行えない場合、全体の排出量(イネ経由+バブリング経路)に対して補正を行えば良い(図3)。どの「温度」や「時刻」に補正するかは目的次第だが、例えば「10時頃」の温度に対応する排出量に補正し、24時間積算すれば1日の総排出量に換算できる(※1)。
- 本研究成果は、前年に稲わらを秋にすき込んだ圃場で得られたものである。イネ残渣を春にすき込むケースや二期作・三期作が行われる熱帯の水田においては、作付け開始直後からバブリング排出量が増える可能性があり、生育前半から本手法を使用することが推奨される。
- 本研究成果は、国内の常時湛水圃場で得られたものである。中干や間断灌漑によって土壌が酸化的になる場合、土中のメタン量が減少しバブリング排出量も少なくなる。そのため、常時湛水条件と比べ本手法の適用対象期間は短くなる可能性がある。
※1 過去の関連する成果:平成24年農業環境技術研究所主要成果(研究)
「水田からのメタン発生量を少ない頻度で精度良く推定するための測定スケジュール」
具体的データ

その他
- 予算区分 : 文部科学省(科研費、戦略的創造研究推進事業)、経済産業省(ムーンショット型研究開発事業)
- 研究期間 : 2019~2024年度
- 研究担当者 : 常田岳志、梶浦雅子
- 発表論文等 : Kajiura M. and Tokida T. (2024) J. Environ. Qual. 53:265-273