ヒ酸還元酵素遺伝子ttrAは水田土壌微生物によるヒ素溶出に関与する

要約

水田土壌から抽出したRNAに含まれるヒ酸還元酵素遺伝子のttrAは湛水開始後に高い発現量を示す。ttrAを高発現する鉄還元細菌や硫酸還元細菌の働きが土壌鉱物からのヒ素溶出に関与し、その働きによって溶出されたヒ素を水稲が吸収する可能性が高い。

  • キーワード : 水田土壌、ヒ素、ヒ酸還元酵素遺伝子ttrA、硫酸還元細菌、鉄還元細菌
  • 担当 : 農業環境研究部門・化学物質リスク研究領域・無機化学グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

コメは、ヒトに対して毒性の高い無機ヒ素の主要な摂取源である。無機ヒ素の形態としてヒ酸と亜ヒ酸があるが、水稲は他の作物に比べ亜ヒ酸をよく吸収する。その理由の一つは、嫌気的な水田環境では、土壌に吸着していたヒ酸が亜ヒ酸に還元されて溶け出し、それを水稲が吸収するためである。ヒ酸が亜ヒ酸に還元されるシステムにはarrAttrAといったヒ酸還元酵素遺伝子を持つ土壌微生物が関与する(図1)。しかしながら、日本の水田土壌においてどのような微生物のどのようなヒ酸還元酵素遺伝子によりヒ酸が亜ヒ酸に還元され、水稲へのヒ素給源になっているのか、全く明らかになっていない。
近年、次世代シーケンサーによる大規模塩基配列解析が可能となり、様々な環境試料を使ったオミクス解析が行われている。オミクス解析の一つであるメタトランスクリプトーム解析はRNAを網羅的に調べることで"実際に発現する遺伝子"を捉えることができる。本研究はメタトランスクリプトーム解析を水田土壌に適用することで、水稲のヒ素給源に関与する微生物と遺伝子を網羅的に捉え、コメのヒ素汚染予測やヒ素汚染低減技術の開発に活用するための基盤情報を提供する。

成果の内容・特徴

  • 国内3カ所の水田土壌を湛水条件下で静置培養すると、土壌から溶出してくるヒ素レベル(土壌溶液中ヒ素濃度)は土壌間で異なる(図2)。
  • 溶出レベルの異なる水田土壌の培養3日目と9日目からRNAを抽出し、メタトランスクリプトーム解析すると、arrA遺伝子の発現は低く、近年ヒ酸還元活性が認められたttrA遺伝子がいずれの土壌でも明らかに高い発現量を示す(図3)。この事は、ttrA遺伝子がヒ素溶出の初期反応において発現する主要なヒ酸還元酵素遺伝子であることを示す。
  • ttrA遺伝子を発現する微生物の種類は土壌によって異なる。水田土壌②では硫酸還元細菌(DesulfosporosinusDesulfitobacterium)が、水田土壌①と③では鉄還元細菌(GeomonasAnaeromyxobacter)が優占的である(図3)。よって、これらのグループに属する微生物がヒ素溶出のキープレイヤーである可能性が高く、特に土壌③では鉄還元細菌のAnaeromyxobacterが持つttrA遺伝子の発現量の増加に伴い(図3)、溶存態ヒ素濃度が高くなる傾向が見られる(図2)。
  • 以上の結果により、還元に伴う水田土壌からのヒ素溶出にttrA遺伝子を高発現する鉄還元細菌や硫酸還元細菌が関与し、水稲が吸収するヒ素の給源になる可能性が高い。

成果の活用面・留意点

  • ttrA遺伝子の発現量を指標の一つとして、土壌からの潜在的なヒ素溶出量を推定することに活用できる。
  • 本研究で取得したttrA遺伝子の酵素活性並びに機能性については今後評価する。

具体的データ

その他

  • 予算区分 : 交付金、農林水産省(戦略的国際共同研究推進委託事業:水田メタン・玄米ヒ素等の同時低減技術の開発と関与微生物群集構造・機能遺伝子の解明)、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2022~2024年度
  • 研究担当者 : 伊藤虹児、倉俣正人、谷川八大、須田碧海、山口紀子、石川覚
  • 発表論文等 : Ito K. et al. (2024) BMC Microbiol. 24:396