要約
メッシュ農業気象データと水稲発育モデル、群落微気象モデルによる予測情報を利用して水田の適切な水管理暦を作成するソフトウェアである。圃場水管理システムに組み込むことで、栽培期間を通じた給排水の自動化や、水田水温、土壌水分の予測に基づいた高度な水管理を実現できる。
- キーワード : イネ、API、灌漑、気相率、シミュレーション、蒸発散
- 担当 : 農業環境研究部門・気候変動適応策研究領域・気象・作物モデルグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 過年度普及成果情報(2018)
背景・ねらい
水稲栽培において労働時間の約3割を占める水管理は、大規模経営での大きな負担となっている。また、水管理は生産者の経験や勘によって行われる部分が大きく、近年の気候変動下あるいは作型が多様化する中での水稲栽培においては、従来のような各圃場での丁寧な水管理の実施が困難になっている。圃場水管理ソフトは、気象条件に応じた日々の水深、灌漑時刻等の水管理のスケジュールを自動作成し、近年普及が進んでいるICTを活用した給排水の遠隔操作システム(圃場水管理システム)に組み込むことで、水田の給排水を最適化するためのソフトウェアとして開発された。
成果の内容・特徴
- 本ソフトウェアは、水田の給排水装置を遠隔駆動できる圃場水管理システムにおいて、プログラムの演算結果に応じた制御命令を出力するものである。プログラムは、水管理スケジュールの作成、発育予測情報の取得、最適灌漑時刻の決定、土壌水分計算から構成されており、作成されたスケジュールの設定水位等の情報をもとに、水位センサによる測定値と比較して給排水バルブの開閉などの判断を行うことで、圃場水管理の遠隔化・自動化が可能である(図1)。
- 水管理スケジュールの作成では、栽培期間を複数期間に分割して各期間の区切りを発育ステージと紐付け、さらに各期間の水管理法を4種類(一定水深、間断灌漑、深水管理、排水)の中から選択することで、全期間のスケジュールを簡単に作成できる。間断灌漑における給水のタイミングは、一定周期のほか、気象情報から群落微気象モデルを用いて推定される蒸発散量に基づいた土壌水分の計算結果(体積含水率や気相率、pFなど)に連動させることも可能である(図1、図2)。
- 対象地点の品種と移植日を登録することで、水稲発育モデルによる発育予測情情報をApplication Programing Interface(API)を通じて取得し、出穂期や成熟期の予測値に応じて、水管理のスケジュールを自動的に調整できる。また、当該日の気象情報から群落微気象モデルを用いたシミュレーションによって、水田水温が最も高く/低くなる最適な給水時刻がLook Up Table(LUT)を通じて取得できる。毎日の給水時刻には、定時刻(1~24時)またはこの最適給水時刻を選択できる(図1)。
- 実際の水田における水稲の登熟期に、高温障害対策を想定して水田水温を低下させる最適な灌漑排水を行った区(昼間湛水区)と、その反対の灌漑排水を行った区(夜間湛水区)を比較すると、両区の水田水温には日最高水温に対して0.75°C、日最低水温に対して0.91°Cの有意な差がみられ、水管理によって水田水温を調節できることがわかる(図3、表1)。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 民間企業、水稲生産者、普及指導機関。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 本ソフトの機能の一部が組み込まれた圃場水管理システムは市販されており、農研機構における開発において実証試験を行った後、民間企業への技術移転によって全国に2000台以上が普及している。知財の実施許諾による利用も可能である。
- その他 : 本ソフトウェアで得られる最適な水管理スケジュールの情報は手動の水管理に反映させることも可能であり、生産者に直接あるいは指導機関を通じた普及も期待される。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(戦略的スマート農業技術等の開発・改良)、SIP、環境省(環境研究総合推進費)
- 研究期間 : 2014~2025年度
- 研究担当者 : 丸山篤志、若杉晃介、鈴木翔、佐々木華織、熊谷悦史、杉田泰淳、中村乾
- 発表論文等 :
- Maruyama A. et al. (2017) Water Res. Res. 53:10065-10084
- 丸山(2018)気象情報を利用した圃場水管理スケジュール作成プログラム、機構-X02
- 丸山、「水田の水位管理スケジュールの生成装置、生成方法、生成プログラム、制御装置、制御方法、及び制御プログラム」特開2024-169643(2024年12月5日)
- 丸山ら(2026)生物と気象、26:17-28