要約
多数の農薬の複合影響を考慮した水生生物に対する生態リスク評価ツール「NIAES-CERAP」の改良版として、農薬のラベル情報(有効成分や使用方法・用量など)を入力することで河川水中濃度を予測し、生態リスクを表示できるWEBアプリケーション「NIAES-CERAP2」である。
- キーワード : 農薬、水生生物、生態リスク、濃度予測、WEBアプリケーション
- 担当 : 農業環境研究部門・土壌環境管理研究領域・農業環境情報グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 普及成果情報
背景・ねらい
農研機構は2018年3月に、モニタリングなどによって得られた農薬の環境中濃度を入力することにより、多数の農薬の複合影響を考慮した水生生物に対する生態リスクが表示されるMicrosoft Excelベースの「複数農薬の累積的生態リスク評価ツール : NIAES-CERAP(Institute for Agro-Environmental Sciences, NARO ― Cumulative Ecological Risk Assessment of Pesticides)」を公開している(https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/niaes/manual/079666.html)。しかしながら、分析やモデルによって推定した農薬の濃度を入力する必要があることや、ユーザーインターフェイスが特定の有料ソフトに依存していることから使用場面に制限があった(図1)。そこで本研究では、農薬の河川水中濃度予測モデルを内蔵し、ブラウザで利用できるWEBアプリケーションとして改良したNIAES-CERAP2を新たに公開する。
成果の内容・特徴
- NIAES-CERAP2は、ブラウザ上で農薬の使用量や使用方法などの情報を入力することにより、殺虫剤、殺菌剤、除草剤の3つのカテゴリー別に累積的生態リスク(複数の農薬による複合影響を考慮した生態リスク)を計算できるWEBアプリケーションである。公開アドレスは「https://agrisk.niaes.naro.go.jp/cerap2_input」である。リスク指標は「影響を受ける種の割合」であり、河川水中の生物種のうち何%が影響を受ける可能性があるかを表示する。
- 本ツールでは、農薬取締法に基づく農薬登録基準の設定に用いられている河川水中予測濃度の計算手法を内蔵している(図1、図2)。予測に必要な農薬毎のパラメータ(物理化学性や環境動態データ)も67農薬について内蔵されており、それらのパラメータからモデル流域における標準的なシナリオに基づいて濃度を計算する。
- 入力画面では、農薬の区分(殺虫剤、殺菌剤、除草剤)、有効成分名、使用方法、濃度、10aあたり使用量を入力する(図3)。これらの入力する情報はすべて農薬製品のラベルから得られる情報であり、それ以外の情報を必要としない。結果の出力画面では、各農薬の河川水中予測濃度と影響を受ける種の割合、そしてそれらの複合影響を考慮した累積的生態リスクが表示される(図4)。
- 水稲一作期を通して使用する農薬全体の生態リスクを可視化できる(図4)。この結果と、環境保全型農業などに農薬使用を切り替えた場合の計算結果を比較することによって、生態リスクがどの程度低減できるかを事前にシミュレーションできる。
普及のための参考情報
- 普及対象 : 生産者、生産者の指導者、農協や自治体、大学などの教育研究機関。
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 日本全国の水田に適用可能。
- 農薬使用を変更した場合のリスク低減効果の可視化が可能であり、「みどりの食料システム戦略」を始めとした環境負荷低減の取り組みに資する。一方で、モデルによる分析は最新の科学的知見を反映しているものの、あらゆる要因を考慮したものではなく、結果にも不確実性が伴う。相対的な比較という目的においては十分な実用性を持つ一方で、リスクの絶対値の過度な意味付けには注意する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)、環境省(農薬水域生態リスクの新たな評価手法確立事業)
- 研究期間 : 2020~2025年度
- 研究担当者 : 永井孝志
- 発表論文等 :
- Nagai T et al. (2022) J. Pestic. Sci. 47:22-29
- 稲生ら(2021)農薬誌、46:51-62