要約
主要穀物の世界の栽培面積のうち20%で2000~2019年に収量が不安定化している。そうした地域の多くでは気候条件の変化が影響している。一方、栽培面積の16%では収量が安定化しており、そうした地域の多くでは農業研究開発による収量安定化の効果が気候変動の悪影響より大きい。
- キーワード : 気候変動、収量安定性、トウモロコシ、コメ、コムギ、ダイズ
- 担当 : 農業環境研究部門・気候変動適応策研究領域・作物影響評価・適応グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
国連食糧農業機関(FAO)は、食料安全保障の4つの柱の1つに「安定性」を掲げている。過去に経験したことがない高温や強雨、干ばつが発生するようになり、主要穀物(トウモロコシ、コメ、コムギ、ダイズ)の生産量が大きく変動する事例が近年、世界各国で報告されている。我が国の食料安全保障を確保するうえで、我が国が穀物を輸入している相手国をはじめとする世界の生産動向(収量の安定化・不安定化)の把握が重要である。
成果の内容・特徴
- 一般に、農業分野では、年代と共に灌漑などの生産基盤の整備が進み、病虫害対策や改良品種の導入が進むため、収量は増加し、かつ安定化していく傾向がある。そのため、生育期間中に過去に経験したことがないような高温や強雨に遭遇しても、技術的に対処できる範囲内であれば、穀物収量への影響は小さいものに留まる。しかし、技術的に対処できる限度を超えると大幅な収量低下が避けられず、収量の年ごとの変動幅が拡大(収量が不安定化)する。
- 農研機構で開発した全球グリッド収量データを解析した結果、トウモロコシとコメ、コムギ、ダイズを合わせた世界の栽培面積約6億4620万ヘクタールのうち20%で過去20年間(2000~2019年)に収量が不安定化している(図1)。
- 次に、気候モデルのシミュレーションを用いて、地球温暖化が起こった実際の気候条件で推計した収量と、地球温暖化がなかったと仮定した気候条件で推計した収量を比較した。その結果、収量が不安定化した地域のうち50%(10対20)で地球温暖化に伴う気候条件の変化は収量を不安定化する方向に影響していた。この面積割合は、収量が安定化した地域の25%(4対16)や、収量の安定性に変化がなかった地域の31%(9対29)よりも1.6~2倍大きい(図2)。
- 一方、世界の栽培面積のうち16%では収量が安定化した。そこで、機械学習モデルを用いて、実際の研究開発支出に基づいて推計した収量と、研究開発支出が2000年以降も2000年の水準に留まったと仮定して推計した収量を比較した。その結果、収量が安定化した地域のうち44%(7対16)では、2000年の水準と比較して、研究開発による収量安定化の効果がそれ以降の年でも見られた。この面積割合は、収量が不安定化した地域の10%(2対20)や、収量の安定性に変化がなかった地域の21%(6対29)よりも2.1~4.4倍大きい(図3)。
- 収量の安定化・不安定化は、研究開発による収量安定化の効果と、地球温暖化に伴う気候条件の変化のバランスで決まると考えられる。多くの国では、累積額で評価される農業研究開発の効果は過去20年間に増加してきた(図4)。それにも関わらず、世界の栽培面積の20%では収量が不安定化、29%では収量の安定性に変化がなかった(図3)。こうした地域では、地球温暖化の悪影響が研究開発による収量安定化の効果を上回っていると考えられる。
成果の活用面・留意点
- 進行する地球温暖化の下でも収量を安定化するために、今後、研究開発を地球温暖化に対して十分に速い速度で進めていくことが求められる。研究開発への投資にも関わらず、収量の安定化に至っていない地域・作物では、より詳細な検討の必要がある。
- 本成果は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第7次評価サイクルにおける議論や、世界各国の地球温暖化対策に役立てられることが期待される。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 環境省(環境研究総合推進費)
- 研究期間 : 2023~2024年度
- 研究担当者 : 飯泉仁之直、滝本貴弘、眞﨑良光、酒井徹(国際農研)、大吉慶(JAXA)、塩竈秀夫(国環研)、今田由紀子(東京大学大気海洋研)、David Makowski(INRAE)
- 発表論文等 : Iizumi et al. (2025) PNAS Nexus 4:pgaf099