要約
農研機構4育成試験地の過去17年間の栽培試験データを偏差解析と回帰分析で整理し、高温・土壌乾燥がダイズの生育・収量・品質に及ぼす影響の全国的な傾向を示す。とくに異常高温年には百粒重と子実タンパク含有率が低下する傾向を示す。
- キーワード : ダイズ、高温、土壌乾燥、収量、子実品質、偏差解析
- 担当 : 農業環境研究部門・気候変動適応策研究領域・気象・作物モデルグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
近年、夏季の異常高温と地域的な干ばつが日本各地のダイズ生産を不安定にし、収量低下や小粒化などが問題となっている。特に2023年および2024年は、全国的に記録的な高温が続き、寒冷地を含む広い地域で影響が懸念される。しかし、これまでの研究は特定地域・特定年次を対象とする事例解析が多く、全国の代表的な育成試験地に共通する発育・収量・品質への影響を、気温と土壌水分を同時に考慮して俯瞰的に整理した例は限られている。
そこで本研究は、全国のダイズ育成試験地で蓄積されてきたヒストリカルデータに対して偏差解析と回帰分析を行い、異常高温年を含む近年の気候変動がダイズの発育・収量・品質にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることをねらいとする。
成果の内容・特徴
- 農研機構の4育成試験地の試験圃場(秋田県大仙市、茨城県つくばみらい市、香川県善通寺市、熊本県合志市)における2008~2024年の生産力検定試験(2作期・2品種、計16条件)から、播種期・開花期・成熟期、収量、百粒重、子実タンパク含有率を整理し、2008~2024年の平均値を基準とした偏差を算出する。これに対して、播種から開花期および開花から成熟期の平均気温と、FAO56モデルを用いて推定した土壌水分の偏差を対応させ、全国4地点のデータを統合して解析する。これにより、地点ごとの気候水準や土壌物理性の違いを相対化し、全国規模で高温・乾燥の影響を比較できる。
- 播種から開花期の気温偏差と播種から開花期までの日数の偏差には有意な負の関係が現れ、気温が1°C高い条件では、日数が1.7日短縮することを示す(図1A)。一方、播種から開花期の土壌水分の偏差との関係は明瞭でない。開花から成熟期の気温偏差と開花から成熟日までの日数との関係は弱いが、土壌水分偏差が低い(乾燥)ほど日数が短縮する傾向が現れ、乾燥条件で生殖成長期間が短縮されやすいことを示す(図1D)。
- 開花から成熟期の気温偏差と収量偏差の関係は、全体として有意な負の傾向を示し、高温年ほど減収しやすいことが分かる(図2A)。決定係数は大きくないものの、2023・2024年の多くの事例が「高温・減収」の象限に分布し、異常高温年のリスクを裏付ける。百粒重は開花から成熟期の気温と土壌水分の双方に感度が高く、気温が1°C高い条件では平均1.2g低下し(図2C)、土壌水分指標が1単位低くなる(乾燥する)と12.7g低下する線形関係が現れる(図2D)。子実タンパク含有率も、高温ほど低下する傾向があり、気温1°C上昇当たり0.5%低下する(図2E)。これらの結果から、2023・2024年のような高温・乾燥条件下では、全国的に百粒重やタンパク含有率が低下しやすく、品質面のリスクも顕在化する。
成果の活用面・留意点
- 本成果は、全国の代表的な育成試験地のヒストリカルデータを用いて、高温・土壌乾燥がダイズの発育・収量および品質に及ぼす影響を、簡便な偏差解析と回帰分析で定量的に評価する枠組みを示すものであり、都道府県の試験研究機関や普及現場における異常高温年の影響整理や情報提供の際に活用できる。
- 播種期や品種ごとに、「百粒重やタンパク含有率が低下しやすいか」といった感度情報として利用することで、登熟期の高温リスクを回避する播種期変更や、高温に比較的強い品種の選定など、地域ごとの適応策検討に役立つ。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(革新的新品種開発加速化緊急対策のうち政策ニーズに対応した革新的新品種開発)
- 研究期間 : 2008~2025年度
- 研究担当者 : 熊谷悦史、菱沼亜衣、山崎諒、髙田吉丈、大木信彦、加藤信
- 発表論文等 : 熊谷ら(2026)日作紀、95:216-231