要約
日本の農地土壌約2万地点の調査データを基に、5地目・225土壌統群・最大6土壌層位ごとに集計し、土壌の物理的性質を中心に22項目の基本統計量を収録したデータベースSolphyJを作成・公開する。さらに、WAGRIを介してAPIによりデータ取得を可能にする。
- キーワード : 定点調査データ、基本統計量、土壌統群、土壌層位、広域評価
- 担当 : 農業環境研究部門・土壌環境管理研究領域・土壌資源・管理グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
土壌は、気候変動の緩和・適応、食料生産の安定化、生物多様性の保全など、地球規模課題の解決において重要な役割を担う。農地土壌における水分・熱の移動、ならびにそれに伴う環境負荷物質の輸送・反応過程を面的かつ広域に評価・予測するには、土壌の基本的な物理性に関するデータベースの整備が不可欠である。しかし、日本の農地を対象とした広域かつ体系的なデータベースの構築はこれまで十分に進んでおらず、広域的なモデル予測・評価を行う上で大きな課題となってきた。そこで、日本の農地における土壌情報の利用環境を整備することを目的として、土壌環境基礎調査事業の定点調査に基づく農地土壌の基本的物理性データに品質管理を施して信頼性を高め、地目・土壌統群・土壌層位別の基本統計量を取りまとめたデータベースSolphyJ(Agricultural soil-profile physical properties database, Japan)を構築する(図1)。
成果の内容・特徴
- SolphyJは、日本の農地約2万地点で得られた調査・分析項目の測定値のうち、信頼性の低い異常値を除外した6,500~98,000件を基に算出された基本統計量を収録する、国内最大級の農地土壌の物理性データベースである。
- SolphyJでは、5つの地目別・225の土壌統群別・最大で第6層までの土壌層位別に集計した、土壌の基本的な物理的性質(かさ密度、粒径組成、飽和透水係数等)を中心に22の調査・分析項目(全炭素含有率、可給態窒素含量等6つの化学的性質を含む)を対象とする。
- SolphyJでは、各調査・分析項目の全国平均値、標準偏差、中央値、四分位範囲といった基本的な統計値に加えて、度数分布図及びそれに当てはめた正規分布曲線のグラフ、度数分布の歪度および尖度、度数分布の正規性及び対数正規性の検定結果も併せて提供する。
- SolphyJが提供する基本統計量とデータの分布情報を活用することで、代表値の妥当性、ばらつきの程度、さらには分布形状に起因する推定誤差を把握できる。これにより、不確実性を定量的に評価しながら、農地土壌における水分・熱移動に伴う化学物質の輸送・反応過程を広域的に予測・評価することが可能となる。
- SolphyJは、農業データ連携基盤WAGRIを介し「SolphyJ_API」として土壌物性値の平均値を配信する。また、農研機構のWeb型土壌情報システム「土壌インベントリーPRO」では、デジタル土壌図上の任意地点において、層位別の土壌物性値(平均値、中央値、標準偏差等)を取得できる。
成果の活用面・留意点
- SolphyJは、多様な地目・土壌・土壌層位における保水性や透水性のモデル関数パラメータの推定に利用できる。また、環境負荷物質の輸送・反応過程をモデル予測する際に、土壌特性値のデフォルト値や初期値としても活用できる。
- 現場でのSolphyJの活用例として、各調査・分析項目について、全国平均値と標準偏差(または四分位範囲)を基準に、対象地点の測定値が全国的な分布の中でどの位置にあるかを把握するベンチマークデータとして利用できる。これにより、値が大きく外れる場合に、追加の調査・分析や管理上の対応を検討する際の目安となる。
- SolphyJは、土壌物性値の基本統計量が記載されたxlsx形式ファイル(図2)とそれら統計解析結果がグラフ化されたPDF形式ファイルから成り、農研機構報告の電子付録としてJ-STAGEからダウンロードできる(https://doi.org/10.34503/naroj.2025.23_77)。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(オープンイノベーション研究・実用化推進事業)、文部科学省(科研費)
- 研究期間 : 2022~2024年度
- 研究担当者 : 朝田景、江口定夫、高田裕介
- 発表論文等 : 朝田ら(2025)農研機構研究報告、23:77-93