環境DNAメタバーコーディングによる水田生物多様性調査の最適なサンプリング方法

要約

田面水のDNA分析により、水田を利用する生物相を把握できる。日本の標準的な大きさの水田(約100m×30m)では、取水口から離れた水田の周縁4箇所でサンプリングすれば、周縁8箇所でサンプリングする場合とほぼ同等の検出力で、水田内の魚類や鳥類の種多様性を評価できる。

  • キーワード : 生物多様性モニタリング、環境配慮型農業、環境DNA、メタバーコーディング
  • 担当 : 農業環境研究部門・農業生態系管理研究領域・生物多様性保全・利用グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

水田は多様な水生生物の生息環境となるが、農地管理によって生物相が大きく異なることが知られている。環境に配慮した農法への転換により、水田内での生物多様性の維持や回復を図る取組が行われているが、実際に生物多様性が回復・保全されたかを評価するためには、生物多様性の観測データが不可欠である。多くの場合、実施される農法は圃場単位で異なるため、水田の生物多様性はできる限り圃場単位で観測されることが望ましい。しかし、これまで生物多様性観測は生物の捕獲や種同定といった高度な専門知識に依存してきたため、圃場単位での広範な観測が困難となっている。
そこで、本研究では専門知識に依存せずに生物観測を実施する方法として環境DNA分析法に着目し、この手法によって圃場ごとに効率よく生物多様性を調査する技術、とくにサンプリング方法について検討する。

成果の内容・特徴

  • 田面から採水したサンプルから昆虫類、魚類、鳥類のDNAを検出でき、それぞれの種群に適したメタバーコーディングプライマーを利用することで、その遺伝子配列から種を同定することができる。ただし、検出できる種は水田での採水位置の影響を受ける。図1のように畦畔に沿って8箇所で採水した場合、検出した種類や種数は採水地点によって異なる(図2)。
  • 日本の標準的な大きさの水田(約100m×30m、栃木県上三川町の7圃場)での調査結果からは、採水地点数を増やしていくと、4箇所程度のサンプルで魚類および鳥類の検出種数は頭打ちとなる圃場が多く、8箇所でサンプルした場合と同等の結果が得られる(図3)。
  • 水生昆虫は多様性が高く、8箇所でのサンプリングでも検出種数が頭打ちにならない(図3)。
  • 水田周囲の8箇所から少量ずつ採水して混合した500mLよりも、各地点で500mLを採水ろ過する方法の方が多くの生物を検出できることが多い(図2、3)。
  • 水口(農業用水の取水口)付近では用水由来の環境DNAが含まれるが、水口から離れた場所での採水により、対象圃場内の生物を検出できる。

成果の活用面・留意点

  • 行政や営農者などが実施する水田での生物多様性モニタリングにおいて、1筆あたりの採水数や採水場所を決める際のガイドラインとなる。
  • 本手法は水中のDNAを分析するため、田面水との接点が乏しい生物を検出しにくいことに留意する。例えば、鳥類はサギ類やカモ類など大型の水生鳥類は検出しやすいが、スズメのような小型で陸生の鳥類は稀に田面で水浴びをすることもあるが検出しにくい。
  • サンプリングの時期によって検出される生物は変化する可能性があることに留意する。例えば、中干し後の調査では検出される生物の種数や種類が変化する可能性は高く、継続的なモニタリングをする場合には毎回調査時期を揃える必要がある。また、種数がそれほど多くない魚類や鳥類は中干し前後でも4箇所程度のサンプリングにより多様性が評価できる。
  • 利用するプライマーや、超並列シークエンサーで取得するデータ量によっても検出性能が異なる可能性があることに注意する。

具体的データ

図1 圃場毎の採水地点(左)と畦畔から採水する様子(右),図2 採水地点毎の検出種数,図3 採水の回数と検出種数の関係

その他

  • 予算区分 : 交付金、文部科学省(科研費)
  • 研究期間 : 2021~2025年度
  • 研究担当者 : 山本哲史、片山直樹、山迫淳介、伊藤健二、大久保悟、馬場友希
  • 発表論文等 :