豚の抗菌剤治療により同系統および他系統の抗菌剤に耐性の大腸菌が選択される
要約
豚の治療に第3世代セファロスポリン系抗菌剤を使用することで、同系統のβ-ラクラム系抗菌剤および他系統のフェニコール系抗菌剤に耐性の大腸菌が選択される。選択された大腸菌には多くの抗菌剤に耐性を示す株も含まれるため、本抗菌剤に対する耐性菌の出現には注意が必要である。
- キーワード:豚、大腸菌、薬剤耐性、第3世代セファロスポリン、選択
- 担当:動物衛生研究部門・人獣共通感染症研究領域・腸管病原菌グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
薬剤耐性菌の出現およびまん延は世界的に大きな問題となっており、そのリスクを減らすための方策として、家畜生産現場における抗菌剤の使用量低減が強く求められている。一方で、抗菌剤の使用と薬剤耐性菌の分離との関連は十分に解明されていない。そこで本研究では、国内で最も豚の飼養頭数が多い鹿児島県において農場での抗菌剤使用と豚由来大腸菌の抗菌剤耐性を調査することで、抗菌剤の使用と薬剤耐性菌の分離との関連を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 農場において豚の治療に抗菌剤を使用することにより、使用した抗菌剤と同系統または他系統の抗菌剤に耐性の大腸菌が選択される(表1)。具体的には、第3世代セファロスポリン系(β-ラクラム系)抗菌剤であるセフチオフルの使用によりβ-ラクラム系抗菌剤(アンピシリン、セファゾリン、セフォタキシム)耐性大腸菌およびフェニコール系抗菌剤(クロラムフェニコール)耐性大腸菌が分離され、フェニコール系抗菌剤の使用によりフェニコール系抗菌剤(クロラムフェニコール)耐性大腸菌およびβ-ラクラム系抗菌剤(セファゾリン)耐性大腸菌が分離される。また、アミノグリコシド系抗菌剤の使用によりアミノグリコシド系抗菌剤(ストレプトマイシン)耐性大腸菌が分離される。
- 本研究で分離された大腸菌には、第3世代セファロスポリン系抗菌剤に耐性を示し世界的に問題となっている基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌も含まれており、これらの大腸菌分離株はβ-ラクラム系抗菌剤の他にも多くの系統の抗菌剤に耐性を示す(表2)。
成果の活用面・留意点
- セフチオフルなどの第3世代セファロスポリン系抗菌剤は細菌性感染症の治療に第二次選択薬として使用されるが、同系統・他系統の抗菌剤に対する耐性菌を選択するリスクとなる。
- ESBL産生大腸菌は多くの系統の抗菌剤に耐性を示すため、第3世代セファロスポリン系抗菌剤耐性菌が確認された場合はESBL産生試験を行い、本菌の浸潤状況を注視することが望ましい。
具体的データ

その他
- 予算区分:農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:動物用抗菌剤の使用によるリスクを低減するための研究)
- 研究期間:2017~2021年度
- 研究担当者:楠本正博、三角和華子(鹿児島県鹿児島中央家保)、船守足穂(広島県西部家保)、濱田恭平(福岡県中央家保)、岩本滋郎(鹿児島県鹿児島中央家保)、藤園昭一郎(鹿児島県鹿児島中央家保)、千歳健一(鹿児島県鹿児島中央家保)
- 発表論文等:Misumi W. et al. (2021) J. Vet. Med. Sci. 83:358-369