日本の野生シカの薬剤耐性菌保有率は極めて低い
要約
日本国内の野生シカの薬剤耐性大腸菌保有率は2.1%である。国内においては野生シカが薬剤耐性菌を家畜や環境へ拡散させる可能性は低い。
- キーワード:薬剤耐性、大腸菌、野生動物、ニホンジカ
- 担当:動物衛生研究部門・人獣共通感染症研究領域・腸管病原菌グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
薬剤耐性菌は人の医療領域及び獣医畜産領域で世界的に問題となっており、当該領域において薬剤耐性菌分布状況が調査されている。一方で、野生動物を含む環境中の薬剤耐性菌分布状況については十分な調査がなされていない。人や家畜の糞尿で汚染された環境中に生息する野生動物は薬剤耐性菌の媒介者となり、本菌を家畜や環境へ拡散させる可能性がある。従って野生動物の薬剤耐性菌保有状況を調査することはワンヘルスアプローチの観点からも重要である。本研究では日本全国に生息する野生のニホンジカを対象として薬剤耐性菌保有状況を調査することで、地域ごとでの家畜または環境に対する野生動物の役割を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 2016-2019年に39県で捕獲された野生シカの糞便237検体のうち、5検体から薬剤耐性菌が分離される(表1)。
- アンピシリン(AMP)、セファゾリン(CFZ)、クロラムフェニコール(CHL)、テトラサイクリン(TET)、ストレプトマイシン(STR)、ST合剤(SXT)耐性菌が検出され、セフォタキシム(CTX)やシプロフロキサシン(CIP)等の人や家畜の感染症治療で重要となる薬剤の耐性菌は検出されない(表2)。
- 糞便5検体から分離された薬剤耐性大腸菌の一部は、人及び家畜由来大腸菌と同じO-genotype及びシーケンスタイプであり、人及び家畜由来大腸菌に認められる薬剤耐性遺伝子を保有する(表3)。
- 薬剤耐性菌保有状況や分離された株の遺伝学的特徴に地域的な偏りは認められない。
成果の活用面・留意点
- 現時点では国内の野生シカの薬剤耐性菌保有率は低く、薬剤耐性菌の汚染源となる可能性は低い。しかしながら野生シカ由来株の一部は人や家畜由来株と共通した遺伝学的特徴を有することから、野生シカが人や動物、その周囲の環境と接触することによって薬剤耐性を拡散させる可能性もあると考えられる。
具体的データ

その他
- 予算区分:厚生労働省(厚生労働科学研究費補助金)
- 研究期間:2018~2020年度
- 研究担当者:玉村雪乃、渡部綾子、新井暢夫、秋庭正人、楠本正博、田中信行(家畜改良センター)、佐藤圭介(新潟県中央家畜保健衛生所)、水野愛乃(熊本県中央家畜保健衛生所)
- 発表論文等:Tamamura-Andoh et al. (2021) J. Vet. Med. Sci. 83:754-758.