国内の家畜に流行する非定型Salmonella Typhimuriumに遺伝的多様性が生じている
要約
国内の家畜において、特定の遺伝子型(9型)に属する非定型Salmonella Typhimuriumの分離が近年増加している。本菌では可動性遺伝因子の獲得・欠失によって変異を重ね、二つの系統グループが生じている。家畜サルモネラ症の制御に向けて各グループの浸潤状況に注意する必要がある。
- キーワード:牛、豚、非定型Salmonella Typhimurium、9型、可動性遺伝因子
- 担当:動物衛生研究部門・人獣共通感染症研究領域・腸管病原菌グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
国内で分離されるSalmonella Typhimurium(ST)および変異型(非定型)STは9つの遺伝子型(1型~9型)に型別される。9型STは国内の家畜において遅くとも1990年代から分離され、続いて9型非定型STが分離され始めた。その後、2010年代以降に9型非定型STの分離頻度が上昇しているが、本遺伝子型の遺伝学的多様性は明らかになっていない。
そこで本研究では、主に国内の家畜から分離された9型のSTと非定型ST 計214株について、全ゲノム塩基配列および時系列情報に基づいた分子系統解析を実施するとともに、非定型化の仕組み、可動性遺伝因子(トランスポゾンやプラスミドなど)の獲得・欠失状況、薬剤感受性を調べることで9型内の遺伝学的多様性および家畜衛生上注意すべき特徴を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 国内の牛、豚、人から分離された9型のSTおよび非定型ST の計214株について全ゲノム解析および分子系統解析を実施すると、これらの株は2つの系統グループ(9-1、9-2)に大別される(図)。
- 9型は鞭毛の発現に関与する遺伝子領域を失うことで非定型化しており、系統グループ9-2では、系統グループ9-1と比較して欠失範囲が拡大している。
- ほぼすべての9型菌は、可動性遺伝因子のうち、薬剤耐性に寄与するトランスポゾン、および家畜飼料などに含まれる重金属への抵抗性に寄与する遺伝子群を保有している。
- 近年の分離株では系統グループを問わず、複数の薬剤耐性遺伝子を搭載したプラスミドを獲得している。9型菌のほとんどが耐性を示すアンピシリン、ストレプトマイシン、サルファ剤、テトラサイクリンに加えて、近年ではクロラムフェニコールとトリメトプリムに耐性を示す菌株が出現している(図)。
成果の活用面・留意点
- 今後、9型の系統グループ特異的因子の検出系を構築することで、より詳細な疫学的考察が可能となる。
- 9型非定型STは国内の広範囲の地域から分離されており、多剤耐性化が進行していることから、引き続き農場における浸潤状況に注意する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金、文部科学省(科研費 19J10415)、文部科学省(医療研究開発推進事業費補助金)
- 研究期間:2016~2021年度
- 研究担当者:新井暢夫、関塚剛史(感染研)、玉村雪乃、Lisa Barco(IZSVe)、日根野谷淳(大阪府大)、山﨑伸二(大阪府大)、岩田剛敏、渡部綾子、黒田誠(感染研)、秋庭正人、楠本正博
- 発表論文等:Arai N. et al.(2021)Frontiers in Microbiology 12:690947