2020年度に国内で初めて家禽から分離されたH5N8亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの特徴

要約

2020年度に国内の家禽で発生した高病原性鳥インフルエンザの初発例から分離された株は、2019-2020年冬季のヨーロッパ発生株と遺伝的に近縁である。感染試験において、本ウイルスの感染が認められた鶏は全て死亡し、全ての感染鶏は臨床症状を示す前からウイルスを排出する。

  • キーワード:高病原性鳥インフルエンザウイルス、H5N8亜型、遺伝子系統解析、感染実験、病原性
  • 担当:動物衛生研究部門・人獣共通感染症研究領域・新興ウイルスグループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

2020-2021年冬季、国内においてH5N8亜型による家禽での高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生が18県で52事例、野鳥からのウイルス分離が18県で58事例の報告がある。本研究では、2020-2021年冬季における国内最初の家禽発生例より分離されたH5N8亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)、A/chicken/Kagawa/11C/2020 (香川株)のウイルス学的特徴を明らかにし、防疫の最適化に役立てることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 香川株のHAタンパク質開裂部位の推定アミノ酸配列はHPAIVに特徴的である。また、ニワトリへの静脈内接種試験では、接種後2日以内に接種鶏が100%死亡する。以上の成績から、国際機関の規定に従って、香川株は高病原性と判定される。
  • 遺伝子系統解析では、香川株のHA遺伝子は国際機関による分類のクレード2.3.4.4Bに属し、2020年10月に北海道、韓国の野鳥から分離されたH5N8 HPAIVと近縁度が極めて高く、これらのウイルスは2020年1-3月にヨーロッパ各国で分離されたH5N8 HPAIVとも近縁である。他の遺伝子分節の系統樹もHA遺伝子と類似の樹形を示す。
  • 香川株を50%発育鶏卵感染量(50% Egg infectious dose;EID50)として102、104、105及び106の濃度で経鼻接種したニワトリの致死率は、それぞれ0%、0%、80%及び100%であり(図1)、50%鶏致死量 (50% Chicken lethal dose; CLD50) は104.63 EID50と算出される。106 EID50接種鶏の平均死亡時間は134.4時間である。日本でH5亜型HPAIが初めて発生した2004年の分離株や2010年の分離株と比較すると、香川株のCLD50は高く、106 EID50接種鶏の平均死亡時間は長い。これは、これらの国内発生株に比べ、香川株の致死性が低いことを示す。生存鶏での香川株の感染は確認されず、感染が認められた鶏は全羽死亡する。
  • 経鼻接種試験において、感染鶏は接種3日後もしくは4日後から臨床症状を示し始める。臨床症状を示す以前の接種1日後もしくは2日後から、全ての感染鶏においてウイルス排泄が認められる(図2)。

成果の活用面・留意点

  • 経鼻接種試験では香川株は臨床症状を示す前からウイルス排泄が認められたことから、実際の農場においては鶏がHPAIVに感染していることに気づく前にウイルスが拡散する可能性がある。
  • 国内の家禽においてHPAIが発生する以前に、北海道、韓国の野鳥からH5N8 HPAIVが分離されており、それらは香川株と近縁度が極めて高い。野鳥におけるHPAIVの流行を調査すること、国内外のHPAI発生状況を把握することは、日本でのHPAIの発生予察に大きく貢献する。

具体的データ

図1 経鼻接種試験の各接種濃度の致死率,図2 感染鶏の排泄ウイルス力価

その他

  • 予算区分:農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:家畜の伝染病の国内侵入と野生動物由来リスクの管理技術の開発)
  • 研究期間:2020~2021年度
  • 研究担当者:佐久間咲希、内田裕子、谷川太一朗、峯淳貴、常國良太、西藤岳彦
  • 発表論文等:Sakuma S. et al. (2021) Viruses. 13(3): 489