アフリカ豚熱ウイルスが効率よく増殖できる豚腎由来不死化マクロファージ細胞

要約

豚腎由来不死化マクロファージ細胞株はアフリカ豚熱ウイルスを安定的かつ効率よく増殖できるため、ウイルスの性状解析やワクチン開発に向けての活用が期待される。

  • キーワード:ASF(アフリカ豚熱)、ASFV(アフリカ豚熱ウイルス)、不死化細胞、マクロファージ
  • 担当:動物衛生研究部門・越境性家畜感染症研究領域・海外病グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

アフリカ豚熱(ASF)は、最近15年間で欧州からアジア諸国まで急速に蔓延し、日本国内への侵入が最も恐れられている致死性の高い豚とイノシシの感染症である。その起源や生態は未だ多くの謎に包まれ、ワクチンなどの有効な予防法や治療法も確立されていない。ASFVは豚やイノシシの体内で、免疫細胞であるマクロファージや単球に感染して増殖する。このことから、ASFVの分離や性状解析には、豚から採取した豚マクロファージ初代細胞が用いられている。しかしながら、豚マクロファージ初代細胞は連続して培養が可能な不死化細胞とは異なり生体外で培養ができず、豚マクロファージ初代細胞を用いる現行のASFV細胞培養系では、ウイルスを安定的かつ効率よく増殖させることが困難となっている。このことが、ASF研究やワクチン開発の妨げとなっており、ASFVに高感受性かつウイルス増殖効率に優れたASFV細胞培養系の開発が求められている。

成果の内容・特徴

  • IPKM細胞株は、ASFV野外株並びに異種動物細胞に馴化したASFV継代馴化株のどちらのASFVに対しても感受性を示し、ASFV感染細胞に特異に認められる赤血球の吸着(HAD)反応が認められる(図1)。
  • ASFVに感染したIPKM細胞株は、明瞭な細胞変性効果(CPE)を伴いながら死滅する(図2)。
  • IPKM細胞株を用いたプラークアッセイ法では、明瞭なプラークの形成が観察される(図3)。
  • IPKM細胞株のウイルス増殖効率は、豚マクロファージ初代細胞と同等程度あるいはそれ以上である(図4)。
  • ASFV野生株をIPKM細胞株で15代連続継代しても、そのゲノムに塩基置換、欠損及び挿入などの遺伝子配列の変化は生じず、性状変化も認められない。
  • 豚腎不死化マクロファージ細胞株IPKMを用いるASFV細胞培養系は、豚マクロファージ初代細胞を用いるASFV細胞培養系と同様の特性を有し、かつASFVの性状を変化させることなく安定的かつ大量に増幅できる。

成果の活用面・留意点

  • 本細胞培養系は、多様なASFV株に高い感受性を示し、また明瞭なHAD反応、CPE及びプラーク形成が認められることから、診断ツールとしての特性を有しており、豚マクロファージ初代細胞を用いるASFV細胞培養系に代わり、ASF診断の現場での利用が期待される。
  • 本細胞培養系は、安定的にかつ効率よくASFVを増殖させることが可能であることから、ASFワクチン製造の最適なプラットホームになることが期待される。
  • 本細胞培養系は、ASFVの病原因子の同定やASFVの性状解析など基礎研究分野での利用が期待される。

具体的データ

図1 ASFV感染IPKM細胞株における血球吸着反応 矢頭:血球吸着反応,図2 ASFV感染IPKM細胞株における細胞変性効果,図3 ASFV感染IPKM細胞株におけるプラーク形成 矢頭:プラーク,図4 肺胞マクロファージ初代細胞(PAM)とIPKM細胞株におけるASFVの増殖曲線

その他

  • 予算区分:交付金、農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:家畜の伝染病の国内侵入と野生動物由来リスクの管理技術の開発)、農林水産省(包括的なレギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:官民・国際連携によるASFワクチン開発の加速化)
  • 研究期間:2017~2020年度
  • 研究担当者:舛甚賢太郎、北村知也、亀山健一郎、岡寺康太、西達也、竹之内敬人、木谷裕、國保健浩
  • 発表論文等:
    • Masujin K. et al. (2021) Sci Rep. 11:4759
    • 舛甚ら「アフリカ豚コレラウイルスの製造方法及び検出方法」国際特許出願
      PCT/JP2020/13953(2020年3月27日)