牛伝染性リンパ腫ウイルスAS1遺伝子の一塩基変異は血中プロウイルス量に影響する
要約
牛伝染性リンパ腫ウイルスがコードするAS1遺伝子に生じた一塩基変異は、AS1遺伝子の機能を変化させ、BLV感染牛のプロウイルス量に影響を与える可能性がある。
- キーワード:牛伝染性リンパ腫ウイルス、一塩基変異、プロウイルス量
- 担当:動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・ウイルスグループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)は、牛のB細胞に感染して致死的な悪性リンパ腫を引き起こす。発症する個体はごく一部であるものの、現在のところ有効な治療法や予防法は存在せず、さらにBLVに感染した牛は生涯ウイルスを保持し感染源となる。そのため、現状ではウイルスの伝播防止には、感染牛の体内の感染細胞の量(プロウイルス量)を主な指標としたリスク分類に応じた高リスク感染牛の隔離や早期淘汰が推奨されている。このため、リスク分類にかかわる情報として、プロウイルス量の多寡に影響を与えるウイルス遺伝子の情報は非常に重要である。
BLVがコードするAS1遺伝子は、近年発見された機能未解明のウイルス遺伝子である。AS1遺伝子は転写されたRNA自身が機能を持つと考えられているため、一塩基変異による配列の変化はRNAの安定性や性質を変化させ、その機能に影響を与える可能性がある。本研究では、臨床検体を用いた解析により、プロウイルス量の多寡に関与しているAS1遺伝子中の遺伝子変異を探索する。
成果の内容・特徴
- 本研究で解析した116検体は、BLVのAS1遺伝子をコードするゲノム領域において一塩基変異のある2~3グループに分類され、特定の変異を有する感染個体は有しない大多数の個体(図1各グラフの左グループ)に比べ、プロウイルス量が低値を示す。この結果は、AS1遺伝子がプロウイルス量の多寡に影響を及ぼすウイルス因子である可能性を示す(図1)。
- 今回見出したAS1遺伝子領域における一塩基変異は、AS1 RNAの予測立体構造を変化させる。この結果は、AS1 RNAの立体構造がAS1遺伝子の機能を発揮するうえで重要な要素である可能性を示唆する(図2)。
- これらの結果は、これまで知られていなかったBLVの病原性メカニズムの一端を明らかにするものである。
成果の活用面・留意点
- プロウイルス量の多寡に影響を及ぼすウイルス因子の同定は、BLVの病態を理解するうえで重要な基盤情報となる。
具体的データ
その他
- 予算区分:農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:抗菌剤に頼らない常在疾病防除技術の開発)
- 研究期間:2017~2021年度
- 研究担当者:安藤清彦、赤上正貴(茨城県)、西森朝美、松浦裕一、熊谷飛鳥、畠間真一
- 発表論文等:Andoh K. et al. (2021) Veterinary Microbiology 261:109200