多機能尾部センサによる繋ぎ飼育牛のリアルタイム発情検知技術

要約

体表温と活動量および起臥状態を連続的にモニタリング可能な多機能尾部センサを用い、得られたデータを人工知能により解析することで、繋ぎ飼育下の牛においても効率よくリアルタイムに発情を検知することができる。

  • キーワード:牛、体表温度、活動量、起臥状態、機械学習、発情検知
  • 担当:動物衛生研究部門・衛生管理研究領域・衛生管理グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

近年、先進国において畜産従事者の減少と牛群の大規模化が進んでおり、個体毎に発情発見のための観察時間を十分に割くことが困難となっている。これに対し、牛の体に装着するセンサ(ウェアラブルセンサ)の開発が世界的に進んでいる。しかし、その多くは放飼下(フリーストールや放牧など)の牛を対象としたものであり、繋ぎ飼育下(タイストールやスタンチョンストールなど)では十分に性能を発揮しないことが報告されている。そこで、発情周期に伴って変化する体表温度や活動量、起臥状態の変化を連続的にモニタリング可能な多機能尾部センサを用い、人工知能(機械学習法)により解析することで、繋ぎ飼育下の牛においても効率よくリアルタイムに発情を検知する技術を開発する。

成果の内容・特徴

  • 多機能尾部センサは簡便かつ低侵襲的に尾根部腹側に装着することができ、3分間隔で体表温度と活動量およびY軸周りのロール角を測定する(図1)。
  • センサデータは携帯電話回線やインターネット回線を利用してクラウド上に収集し、管理することができる。
  • ロール角の変化から各時点における起臥状態を判別することができ、一定期間内の起立時間および起臥回数を計測可能である。
  • 多機能尾部センサは、発情周期に伴う体表温度と活動量、起立時間、起臥回数の変化を捉えることが可能である(図2)。
  • 体表温度と活動量、起臥状態の変化を人工知能(機械学習法)により解析すると、繋ぎ飼育下における牛において感度90%・精度55%でリアルタイムに発情を検知できる。

成果の活用面・留意点

  • 本法は自動で取得される体表温度と活動量、起臥状態に関するデータを用いることから、発情発見に要する観察時間が大幅に短縮でき、繁殖管理の省力化に貢献する。
  • 本法は発情周期に伴う活動量や起臥状態などの行動学的変化だけでなく、生理学的に変化する体表温度も捉える手法であることから、行動が制限される繋ぎ飼育下において利用可能である。
  • 本法は機械学習を用いた発情検知法であり、センサデータの蓄積や解析法の改善を図ることで、より正確な発情検知や高確率に受胎する人工授精のタイミングを判定する技術としての利用が期待できる。

具体的データ

図1 多機能尾部センサと装着時の様子,図2 多機能尾部センサを用いた発情検知の流れ

その他

  • 予算区分:農林水産省(AIプロジェクト)
  • 研究期間:2017~2021年度
  • 研究担当者:檜垣彰吾、吉岡耕治、鈴木千恵、西浦玲奈、岡田浩尚(産総研)
  • 発表論文等:
    • 檜垣ら「家畜の健康状態管理システム、家畜用ウェアラブルデバイス、家畜の健康状態管理方法及びプログラム」特開2021-35355(2021年3月4日)
    • 檜垣、吉岡 (2021) 臨床獣医、39:21-26
    • 檜垣、吉岡 (2021) 繁殖技術、41:129-139
    • Higaki S. et al. (2021) Comput. Electron. Agric. 191:106513