豚の白血球貪食能を向上させるDNAマーカー

要約

豚抗病性の遺伝的改良のために、リボヌクレアーゼL(RNASEL)遺伝子のプロモーター型をDNAマーカーとして種豚選抜を行い、RNASELの遺伝子発現の増加を通じて白血球貪食能を向上させることが可能である。

  • キーワード:豚、貪食能、DNAマーカー、RNASEL、プロモーター
  • 担当:動物衛生研究部門・衛生管理研究領域・衛生管理グループ/生物機能利用研究部門・生物素材開発研究領域・動物モデル開発グループ
  • 代表連絡先:
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

養豚業において肺炎・下痢等の慢性感染症による経済的被害は甚大である。現在、抗菌薬やワクチンが主要な感染症対策であるが、抗菌薬については薬剤耐性菌の出現リスクにより使用が抑制されていること、ワクチンについては対象病原体の多さ、流行株が変化すること、また、近年増加する新興・再興感染症に対して、その都度ワクチンを開発するのが困難である等の様々な問題がある。同様に、感染症対策として期待される豚の抗病性の遺伝的改良については、肉質等の生産性形質の改良に比べて困難であることから取組が大きく遅れている。
本研究では、大ヨークシャー種を基礎豚として3種類の免疫能形質(白血球貪食能、補体代替経路活性、豚丹毒ワクチン接種後の抗体応答)を指標として6世代に渡る選抜を行った豚(高免疫豚)と無選抜豚(一般豚)のゲノム/遺伝子レベルでの差を解析することにより、高免疫豚の遺伝的特性を明らかにし、免疫能向上のためのDNAマーカーを開発する。

成果の内容・特徴

  • 高免疫豚および一般豚それぞれ4頭ずつからマクロファージを調製し、lipid A刺激前後の全RNAを抽出してマイクロアレイ解析に供する。豚群間でlipid A刺激後の発現に3倍以上の差がある30個の免疫系遺伝子が検出される(図1)。
  • 高免疫豚および一般豚それぞれ10頭ずつからゲノムDNAを精製し、30個の遺伝子のプロモーター領域5kbの塩基配列を解読して、豚群間の多型からハプロタイプを推定する。RNASEL遺伝子において一般豚に優勢な型(1型)と高免疫豚に優勢な型(2型)の2個のプロモーター型が存在する(表1)。免疫能選抜により2型プロモーターの豚集団における頻度が上昇する(表1)。
  • 免疫能選抜第3世代220頭の豚に対して、RNASEL遺伝子プロモーターの遺伝子型を判別して、一般化線形モデルにより選抜指標とした3種類の免疫能形質との関連を解析する。2/2型の豚では1/1型および1/2型と比較して白血球貪食能が大きく亢進する(図2)。

成果の活用面・留意点

  • RNASEL遺伝子のプロモーター型をDNAマーカーとして種豚選抜を行うことにより、大ヨークシャー種の白血球貪食能が亢進し、多種多様な病原体に対する抗病性が一様に上昇することが期待できる。
  • リボヌクレアーゼLは、ウイルス由来RNAを短く切断して細胞内のRNAセンサー分子による認識を高めることによりインターフェロンβの産生を促進することが知られており、生体のウイルス抵抗性と関連することが予想される。
  • 当該多型が大ヨークシャー種以外の他の豚品種にも同様に存在する場合には、品種や集団に依らず広範にDNAマーカーとして利用できる可能性がある。

具体的データ

図1 高免疫豚/一般豚間でlipid A刺激後の発現に3倍以上の差が検出された遺伝子,表1 RNASEL遺伝子のプロモーターの塩基構成と一般豚および高免疫豚における分布,図2 RNASEL遺伝子のプロモーター型の白血球貪食能への影響

その他

  • 予算区分:文部科学省(科研費 26850173、17K08057)
  • 研究期間:2014~2021年度
  • 研究担当者:新開浩樹、高萩陽一(日本ハム)、松本敏美、土岐大輔(JATAFF研)、竹之内敬人、木谷裕、助川慎(日本ハム)、鈴木啓一(東北大学)、上西博英
  • 発表論文等:
    • 新開ら(2017)特開2017-163907
    • 新開ら(2020)特許第6792779号
    • Shinkai H. et.al. (2021) The Journal of Veterinary Medical Science 83:1407-1415