牛の黄色ブドウ球菌性乳房炎の乳汁では鉄取り込み分子に対する特異抗体が増加する
要約
牛の黄色ブドウ球菌(SA)性乳房炎の乳汁ではSAの増殖に必須な2種類の鉄取り込み分子に対する特異抗体が増加する。これらの蛋白は、SA性乳房炎のワクチン候補抗原蛋白として有力な候補になる可能性がある。
- キーワード:牛、黄色ブドウ球菌、乳房炎、鉄取り込み分子、特異抗体
- 担当:動物衛生研究部門・衛生管理研究領域・病理・生産病グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
乳房炎は酪農生産者に対して甚大な経済的被害をもたらす疾病であり、酪農生産現場では乳房炎の発症を防除するワクチンの開発が強く求められている。牛のSA性乳房炎に対する有効なワクチン抗原を同定した報告は少なく、新たな抗原の選定とそれを探索するスクリーニングが必要である。
そこで本研究では、将来的なSA感染の予防を念頭に、新たにDNAライブラリースクリーニングを取り入れ、乳汁中で増加する特異抗体を明らかにする。
成果の内容・特徴
- SA性乳房炎が明確である乳汁中の抗体を用いたSAのDNAライブラリースクリーニング(図1)により、SAの増殖に必須な鉄取り込み分子AおよびBが検出される(表)。
- 牛へのSAによる乳房内感染実験において、感染後2週間以降の乳汁中鉄取り込み分子AおよびBに対する特異的IgA抗体は感染前と比較して有意に高い(図2)。
- 牛のSA性乳房炎の自然感染乳汁において、鉄取り込み分子AおよびBに対する特異的IgA抗体が有意に高い(図3)。
成果の活用面・留意点
- 牛の黄色ブドウ球菌性乳房炎の乳汁では乳房内感染により鉄取り込み分子鉄取り込み分子AおよびBに対する特異的抗体が増加する。
- 多くのSA性乳房炎の自然感染乳汁で鉄取り込み分子AおよびBに対する特異抗体が検出されることから、 鉄取り込み分子AおよびBは SAに共通して保持され、かつワクチン候補抗原蛋白として有力な候補になる可能性がある。
- 鉄取り込み分子AおよびBに対する抗体の濃度が高くなっているにも関わらず、乳房炎は継続していることから、抗鉄取り込み分子抗体による牛のSA性乳房炎に対する防除効果の研究をさらに行う必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分:文部科学省(科研費 20K15670)
- 研究期間:2020~2021年度
- 研究担当者:長澤裕哉、内田郁夫(酪農学園大学)、田邉扶由子、遠藤亜矢、菅原和恵、菊佳男(酪農学園大学)、岩田剛敏、加藤千絵子(十勝家畜保健衛生所)、山下祐輔(北海道中央NOSAI)、林智人
- 発表論文等:Nagasawa Y et al.(2021)Vet Immunol Immunopathol. 235, 110235