アカバネ病、アイノウイルス感染症及びピートンウイルス感染症ラットモデルの作出と野外症例の診断に有用な免疫組織化学およびin situ hybridization法
要約
牛や緬山羊に先天異常を引き起こすアカバネウイルス、アイノウイルス及びピートンウイルスのラット感染モデルを作出する。ウイルス抗原を検出する免疫組織化学やウイルス遺伝子を検出するin situ hybridization法は野外症例の診断や病態解析に役立つ。
- キーワード:アルボウイルス、免疫組織化学、in situ hybridization、ラット感染モデル
- 担当:動衛研・衛生管理研究領域・病理・生産病グループ
- 代表連絡先:
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
アカバネウイルス(AKAV)、アイノウイルス(AINOV)およびピートンウイルス(PEAV)は、オルソブニャウイルス属のアルボウイルスであり、牛、緬山羊に先天異常を引き起こす。国内で認められるAKAVは、遺伝子グループⅠとⅡに分類され、前者は出生後の動物に非化膿性脳脊髄炎を起こすこともある。これらの疾病の病理学的診断では、免疫組織化学 (IHC)によってウイルス抗原を検出するが、現在用いられている家兎血清は交差反応があり、各ウイルス種を識別して検出することができない。本課題では、病理学的診断法の高度化を目的として、各ウイルスの識別が可能なin situ hybridization法(ISH)によるウイルスRNA検出法の確立を試みる。また、病態解析に役立つラット感染モデルの作出、IHCの検出感度の向上を目的とした新たなIHC用抗体の作製を行う。
成果の内容・特徴
- AKAV Ⅰ (KM-1/Br/06株)、AKAV Ⅱ (OBE-1株)、PEAV(KSB-1/P/06株)及びAINOV(JaNAr28株)を接種した全ての3日齢乳のみラットが重度の神経症状を呈し、重度の脳病変を形成する。
- AKAV感染細胞可溶化抗原を0.1%ホルマリンで処理し、ウサギを免疫して得られた家兎血清は、ホルマリン未処理抗原で免疫した対照家兎血清に比べて力価が高い。同血清は従来のIHC抗体と同様にAINOV及びPEAVに対して交差反応を示す(図1)。
- AKAV Ⅰ、AKAV Ⅱ、AINOV及びPEAVに対するプローブを用いたISHでは各ウイルスRNAを特異的に検出できる (図2)。
- IHCで検出されるウイルス抗原の分布とISHで検出されるウイルスRNAの分布は、ほぼ一致している (図2)。また、牛に生後感染を起こすAKAV Ⅰに感染したラットでは、脳以外に骨格筋と心臓にウイルス抗原とウイルスRNAが検出され、アカバネ病生後感染例の感染機序の解明にも役立つ(図3)。
- AKAV家兎血清を用いたIHC及びAKAV Ⅰプローブを用いたISHはアカバネ病生後感染牛(野外症例)の診断や病態解析に有用である(図4)。
成果の活用面・留意点
- ラット感染モデルはオルソブニャウイルス属感染症の病態解析に有用である。
- ISHは各ウイルス感染の特異的診断に有用である。
- 本課題内で作出した抗AKAV家兎血清は、IHC用として全国48ヶ所の家畜保健衛生所等に配布している。
具体的データ

その他
- 予算区分:交付金
- 研究期間:2012~2018年度
- 研究担当者:木村久美子、梁瀬徹、加藤友子、播谷亮
- 発表論文等:Kimura K. et al. (2021) J. Comp. Pathol. 187:27-39