血液中のウイルス遺伝子の検出に適した核酸試料の簡易な調製法

要約

本法は、血液や組織乳剤など多様な検体中の豚熱ウイルスとアフリカ豚熱ウイルスの遺伝子を迅速かつ高精度に検出するための簡易な核酸精製法である。短時間の熱処理および遠心操作のみで核酸を迅速に抽出するとともに、PCR反応を阻害する成分の影響を容易に除去することができる。

  • キーワード : 血液、核酸抽出法、豚熱、アフリカ豚熱、リアルタイムPCR法
  • 担当 : 動物衛生研究部門 越境性家畜感染症研究領域 海外病グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 普及成果情報

背景・ねらい

豚熱(CSF)とアフリカ豚熱(ASF)は異なるウイルスを原因とする豚の伝染病で、伝播力と病原性が強く、養豚業に深刻な被害を及ぼす。感染の拡大には豚だけでなく、野生動物、特にイノシシの関与が強く示唆され、両疾病を対象とする防疫対応が重要な課題である。CSFとASFは臨床症状が酷似するため、迅速で高精度な遺伝子検査法により早期に感染を発見し、防疫措置を講じる必要がある。現在、国や都道府県の病性鑑定施設では、主にリアルタイムPCR法を用いた疑い事例の検査や監視が行われている。これらの検査では、山野で発見されたイノシシの死体から、リアルタイムPCR法でのウイルス検出にはあまり適さない血液や保存状態の良くない組織等を採取して検査を行うことが求められる事例も多く、検査前に高価な試薬を用いてこれらの検体から被検試料となる核酸を精製、回収する煩雑な作業が必要であった。そこで、本研究では、これまでより簡易・迅速にリアルタイムPCR検査に適した核酸試料を調製するための新たな手法の開発を行う。

成果の内容・特徴

  • 被検血液と前処理用試薬を混合し、得られた混合物を98°Cで3分間加熱することでPCR反応を阻害する成分を分解、凝塊化する。これを低速で短時間遠心分離して固相側に分離することにより、液相側に赤血球を含まずヘモグロビン色素の大半が除去された試料が得られる(図1)。
  • 得られた試料をCSFおよびASF検査で用いられているマルチプレックスダイレクトリアルタイムPCR法に供することで、反応および検出阻害の影響を大幅に低減しつつ、ウイルス遺伝子を高精度で検出できる (図2)。原因ウイルスは血球中に多く含まれるため、同じ個体からの検体では、新規法(全血を使用)が血清からの検出よりも検出効率が向上する(増幅曲線が左方へ移動)。
  • この前処理法では、通常の核酸の精製工程で要する特殊な機器や有機溶剤等の試薬は不要である。さらに、検査の迅速化だけでなく、煩雑な検体の前処理における試料間の交差汚染や検体の取り違えリスクの低減を可能とする。
  • 本法は全血のみならず血清や組織乳剤試料にも適用可能で、試料の種類によらず一律にウイルス遺伝子の検出に適した核酸試料を簡易に調整できるため、多検体処理が容易になる。

普及のための参考情報

  • 普及対象 : 都道府県家畜保健衛生所および認定民間検査機関、動物検疫所、動物医薬品検査所、国立環境研究所等
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等 : 全国
  • その他 : 本法は、国が定める特定家畜伝染病防疫指針の診断マニュアルに記載されているリアルタイムPCR法に適した試料の前処理法として活用できる。令和5年6月28日より、タカラバイオ(株)から発売を開始している(農研機構プレスリリース、2023年6月27日付)。

具体的データ

図1 血液中のウイルス遺伝子の検出に適した核酸試料の簡易な調製法の実施手順,図2 新しい調製法を用いた全血試料からのウイルス遺伝子の検出

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:官民・国際連携によるASFワクチン開発の加速化)
  • 研究期間 : 2022~2023年度
  • 研究担当者 : 西達也、國保健浩、中筋愛(タカラバイオ(株))、吉崎美和(タカラバイオ(株))、名倉有一(タカラバイオ(株))
  • 発表論文等 :
    • 國保健浩、西達也ら、特願(2023年2月1日)
    • 農林水産省(2023)「豚熱及びアフリカ豚熱のマルチプレックスリアルタイム PCR 検査法等の検体処理について」 (令和5年7月31日通知)