要約
コリスチン使用歴のある養豚場においてコリスチンの使用を中止すると、コリスチン耐性大腸菌の発生は減少する。しかし、健康豚が保有する様々な種類の大腸菌に複数種類のmcr-1プラスミドが存在することで、コリスチン耐性大腸菌の完全な排除が困難になる。
- キーワード : 豚、大腸菌、コリスチン、薬剤耐性、mcr-1遺伝子
- 担当 : 動物衛生研究部門・人獣共通感染症研究領域・腸管病原菌グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
コリスチンは家畜の細菌性下痢症の治療のほか、過去には飼料添加物として使用されてきたが、人の医療において重要な抗菌剤であることや、伝達性コリスチン耐性遺伝子mcr-1が世界的に拡散していることから、本抗菌剤は2018年より治療目的以外での飼料添加が禁止され、治療においても第二次選択薬に指定されて慎重使用の徹底が求められている。一方、農場における抗菌剤使用の中止が耐性菌の低減に与える影響については十分なデータが得られていない。そこで本研究では、豚の浮腫病の治療にコリスチンを使用していた1農場において、2017年5月に本抗菌剤の治療目的での使用を中止、さらに2018年4月にすべての飼料添加を中止した後のコリスチン耐性大腸菌およびmcr-1保有大腸菌の発生状況を調べる。
成果の内容・特徴
- コリスチン使用中止前(2016年6月)は健康な豚から分離した大腸菌株のすべて(7株中7株)がコリスチン耐性であったが、治療使用のみを中止した後(2017年8月)には71%(7株中5株)、飼料添加を含むすべてのコリスチン使用を中止した後(2018年11月)には20%(10株中2株)とコリスチン使用中止に伴いコリスチン耐性株の割合が減少する(表1)。しかし、コリスチン使用中止から時間が経過しても、コリスチン耐性株の割合は変化しない(2019年3月:25%)。
- すべてのコリスチン耐性株が、3種類の大きさ(46、76、79 kb)のプラスミド上にmcr-1を保有しており、大腸菌の型(sequence type:ST)とmcr-1プラスミドの種類(大きさ)の間に関連は見られない(表1)。
成果の活用面・留意点
- mcr-1を保有するコリスチン耐性大腸菌が発生した養豚場では、たとえコリスチンの使用を中止しても豚の腸管に存在する大腸菌にmcr-1プラスミドが広がっている可能性があるため、mcr-1保有大腸菌の排除を確認できるまで本菌のモニタリング等の対策を継続することが望ましい。
- 治療にコリスチンを使用する際には、コリスチン耐性菌の発生を抑えるため特に慎重使用を徹底する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2021~2022年度
- 研究担当者 : 楠本正博、玉村雪乃、吉澤頌樹(愛媛県中央家保)、小菊夕奈(愛媛県中央家保)
- 発表論文等 :
Yoshizawa N. et al. (2023) J. Vet. Med. Sci. 85:536-540 doi: 10.1292/jvms.22-0316