天然化合物であるトリプタンスリンは低濃度で鶏腸管内のカンピロバクターを減らす

要約

植物が含む天然化合物(植物性化合物)トリプタンスリンは、食中毒の原因菌であるカンピロバクターに他の植物性化合物より低濃度で抗菌作用を示し、鶏への飲水投与で腸管内のカンピロバクター菌数を低減する。本成果は鶏腸管内のカンピロバクターを低減する植物性飼料の開発に繋がる。

  • キーワード : カンピロバクター、トリプタンスリン、植物性化合物、鶏
  • 担当 : 動物衛生研究部門・人獣共通感染症研究領域・腸管病原菌グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

カンピロバクターは、最も発生件数の多い細菌性食中毒の起因菌であり、Campylobacter jejuni及びCampylobacter coliが厚生労働省により食中毒菌に指定されている。カンピロバクターは家畜・家禽の腸管内に広く分布しているが、食中毒の主な原因食品としては鶏肉が疑われている。農場の鶏は高率にC. jejuniを腸管内に保有しており、糞便への排菌量も多く、食鳥処理過程での可食部への付着や交差汚染に繋がっている。鶏腸管内のC. jejuni菌数を低減する対策資材が開発できれば、フードチェーン全体の汚染低減に繋がり、より安全・安心な鶏肉の生産が可能となるが、現在まで有効な対策資材は実用化されていない。そこで本研究では、鶏腸管内のカンピロバクターを低減する新たな化合物を同定することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)が提供する1926化合物からなるライブラリーを用いてスクリーニング試験を実施し、10 μM以下の低濃度でC. jejuniに抗菌作用を示す36化合物を同定できる。それら化合物から抗菌薬として用いられているもの、市販されていないものを除き、実用化可能性を検討することで、植物性化合物トリプタンスリンを選択できる。
  • C. jejuni 2菌株(NCTC 11168株及び81-176株)に対するトリプタンスリンの最少発育阻止濃度(MIC)は、カンピロバクターに抗菌性を示すことが知られている他の植物性13化合物より低い(表1)。
  • トリプタンスリンは、C. jejuni及びC. coli、計24株の増殖を12.5 μM以下の濃度で抑制する。一方で、本化合物は健康な鶏の腸管内に存在する大腸菌などの細菌に対しては、100 μMでも増殖を抑制しない。
  • トリプタンスリン及び、C. jejuniでの耐性化が特に注視されている抗菌剤(エリスロマイシン、シプロフロキサシン)をそれぞれ添加した液体培地でC. jejuniを植え継ぎ、MICの変化を比較すると、トリプタンスリンのMICの上昇は抗菌剤と比べて顕著でない。
  • カンピロバクターの感染前(実験I)または感染後(実験II)のタイミングでそれぞれトリプタンスリン 0、10、100 μMの濃度で鶏への飲水投与を開始し、11及び18日齢時に盲腸内容物中のカンピロバクター菌数を比較すると、実験Iでは18日齢、実験IIでは11及び18日齢で、100 μM投与群のカンピロバクター菌数が未投与群の概ね1/10となる(P < 0.05)(図1)。

成果の活用面・留意点

  • トリプタンスリンの作用機序及び耐性機序については不明な点が多いため、今後、それらの解明に向けた更なる研究が必要である。
  • トリプタンスリンはタデアイなどの植物に高濃度で含まれていることが報告されている。本研究を進展させることで、鶏腸管内のカンピロバクター菌数を低減する植物性飼料及び動物用医薬品の開発に繋がる可能性がある。

具体的データ

表1 カンピロバクターに対するトリプタンスリン及び他の植物性化合物の最小発育阻止濃度,図1 トリプタンスリン飲水投与鶏へのカンピロバクター感染実験結果

その他

  • 予算区分 : 交付金
  • 研究期間 : 2018~2022年度
  • 研究担当者 : 岩田剛敏、渡部綾子、玉村雪乃、新井暢夫、秋庭正人(酪農大)、楠本正博
  • 発表論文等 :