2021年シーズンに分離された高病原性鳥インフルエンザウイルスの鶏に対する病原性

要約

2021年シーズンに日本国内の家きん農場で分離された3グループの高病原性鳥インフルエンザウイルスの鶏に対する感染性や平均死亡時間、伝播性、感染鶏の示す臨床所見、排泄ウイルス量を明らかにする。本研究成果は、農場でのHPAIVの早期発見等の資料として活用できる。

  • キーワード : 高病原性鳥インフルエンザウイルス、2021年シーズン、感染性、伝播性、鶏
  • 担当 : 動物衛生研究部門・人獣共通感染症研究領域・新興ウイルスグループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

2021年シーズン、国内においてH5N8亜型及びH5N1亜型による家きんでの高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生が12道県で25事例、野鳥からのウイルスの検出が8道府県で107事例が報告されている。家きんから分離されたウイルス株のヘマグルチニン(HA)遺伝子の系統解析により、これらは3種類のグループ(20A(H5N8亜型)、20E(H5N1亜型)及び21E(H5N1亜型))に分類される。本研究では、これら3グループの高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)(秋田株(20A)、鹿児島株(20E)及び岩手株(21E))の鶏への感染性や平均死亡時間(感染から死亡までに要する時間)、臨床症状、排泄ウイルス量、伝播性などの病原学的特徴を明らかすることを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 秋田株、鹿児島株及び岩手株のHAタンパク質の開裂部位の推定アミノ酸配列は塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン)の集積が認められる典型的なHPAIVのものである。また、鶏への静脈内接種試験では、接種後2日以内に接種鶏が100%死亡する。従って、国際獣疫事務局(WOAH)の規定に従って、試験に用いたこれら3株は高病原性と判定される。
  • 経鼻接種試験の結果、これら3株の50%鶏致死量 (50% Chicken lethal dose; CLD50) は、103.8EID50(50% Egg infectious dose;EID50)(秋田株)、104.5EID50(鹿児島株)及び104.7EID50(岩手株)であり(表1)、秋田株の致死性が最も高い。
  • 106.0 EID50接種鶏の平均死亡時間は3.5日(秋田株)、3.3日(鹿児島株)及び2.2日(岩手株)であり(表1)、岩手株の平均死亡時間が3株の中で最も短い。
  • 臨床所見としては、3株ともに感染した鶏は元気消失を示す(表1)。秋田株感染鶏からは、鶏冠や脚の皮下出血が確認されるが、鹿児島株と岩手株感染鶏ではほとんど確認されない(図1)。一方で、鹿児島株と岩手株に感染した一部の鶏からは神経症状が確認される。
  • 106.0 EID50接種鶏から排泄ウイルス量を測定した結果、3株ともに感染鶏からは総排泄腔よりも気管からの方が高い力価のウイルスが検出される。平均最大ウイルス力価を計算した結果、簡易検査キットおよび遺伝子検査での判定に十分量のウイルス(105.0 EID50/mL)が気管より排泄されている。
  • 1羽の感染鶏を6羽の非感染鶏とケージ内で同居させ、3株の伝播性を調べると、秋田株は6羽(100%)に伝播するのに対し、鹿児島株と岩手株は3羽以下(50%以下)にしか伝播しない(表1)。以上の結果から、秋田株は鶏に対する致死性に加えて、伝播性も高いことが示唆される。また、これまでの国内発生株(2004年以降)と比べて、2021年シーズン発生株の鶏に対する感染性は中程度であることも示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 20A、20E及び21EのいずれのHPAIVに感染した鶏は数日以内に100%死亡すること、感染鶏からは病性鑑定(抗原検査と遺伝子検査)に十分量のウイルスが排泄されていることを確認している。
  • 近年は、前シーズンに国内で流行したHPAIVが渡り鳥により再び持ち込まれる傾向にある。渡り鳥が持ち込むHPAIVのグループの早期同定と組み合わせることにより、前シーズンに流行したHPAIVの再侵入を察知した場合には、本研究成果は、農場における感染鶏の早期発見に有用な情報(特徴的な症状等)の提供及び家畜保健衛生所が実施する病性鑑定の資料として活用できる。

具体的データ

表1 経鼻接種試験および伝播試験の結果,図1 HPAIVに感染した鶏の鶏冠・脚の肉眼病変

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:家畜の伝染病の国内侵入と野生動物由来リスクの管理技術の開発)
  • 研究期間 : 2021~2022年度
  • 研究担当者 : 高舘佳弘、常國良太、熊谷飛鳥、峯淳貴、菊谷裕斗(農林水産省)、佐久間咲希、宮澤光太郎、内田裕子
  • 発表論文等 : Takadate Y. et al.(2023), Viruses, 15(2), 265