要約
ニホンイノシシも豚と同様に、口蹄疫ウイルスに感染し、蹄部等に水疱を形成するが、皮膚と被毛が黒く、毛が長いことに加えて、顕著な跛行を示さないため発見しにくい。しかし、豚と同様にウイルス血症やウイルス排泄を示し、同居動物に水平伝播も起こすため、防疫上問題である。
- キーワード : 感染試験、口蹄疫、感染動態、豚、ニホンイノシシ
- 担当 : 動物衛生研究部門・越境性家畜感染症研究領域・海外病グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
偶蹄類家畜のみならず、多くの偶蹄類野生動物が口蹄疫ウイルス(FMDV)に感受性である。しかし、ワクチン接種や移動制限といった防疫対応は野生動物に対して実施出来ないため、本病発生時において、FMDVに感受性のある野生動物は、本病の防疫上問題となる可能性がある。また、野生動物の生息域が家畜の飼養農場と近かった場合、野生動物が家畜の感染源となる可能性がある。実際、過去に野生動物が関与したと考えられる本病の発生が複数報告されている。
一方、いのししは世界中に最も広く分布する野生動物の一つであり、その生息域は口蹄疫の流行地域と同様に、北アフリカ、中東およびアジア地域である。また、いのししと同じ種に属する豚は、牛や緬山羊よりも呼気中に多量のウイルスを排泄し、本病の感染源となる。そのため、豚と同様にいのししも本病の感染源となる可能性があるが、いのししにおけるFMDVの感染動態や臨床症状の推移はほとんど解析されていない。
そこで本課題では、我が国に生息するニホンイノシシにFMDVを接種し、その感染動態や臨床症状の推移について豚と比較する。
成果の内容・特徴
- FMDVを経口接種することにより、ニホンイノシシは豚と同様にウイルスに感染し、ウイルス血症やウイルス排泄を示す(図1)。
- ニホンイノシシは豚と同様に、蹄部、口唇部および鼻部に水疱を形成するが、皮膚や被毛が黒く、毛が長いため、水疱を発見しづらい(図2)。また、ニホンイノシシは豚と異なり、顕著な跛行を示さないため、臨床・外貌上、健康な個体と区別することが困難である。
- FMDVを接種したニホンイノシシは、豚と同様に、同居豚へウイルスを水平伝播する。
成果の活用面・留意点
- 本病発生時に、野生いのししに対する適切なサーベイランスプログラムを策定し、効果的な防疫対応を実施する上での基礎的知見となる。
- FMDV感染イノシシは、FMDV感染豚と同様に、ウイルス血症やウイルス排泄を示し、同居個体に対する感染源となる可能性があるにも関わらず、臨床・外貌上、ウイルス感染を検知しづらいため、本病の防疫上問題となる可能性がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(戦略的プロジェクト研究推進事業:家畜の伝染病の国内侵入と野生動物由来リスクの管理技術の開発)
- 研究期間 : 2018~2020年度
- 研究担当者 : 深井克彦、川口理恵、西達也、生澤充隆、山田学、Kingkarn Boosuya Seeyo(東南アジア地域口蹄疫レファレンス研究所)、森岡一樹
- 発表論文等 :
- Fukai K. et al. (2022) Vet. Res. 53(1):86
- Fukai K. et al. (2023) Microbiol. Resour. Announc. 12(2):e0111022