豚熱ウイルス感染豚およびイノブタは長期間ウイルスを排泄する

要約

現在わが国で流行している豚熱ウイルスに感染した豚やイノブタは、実験感染後約1か月間、ウイルス血症を示すとともに、唾液や鼻汁中に感染性のあるウイルスを排泄することから、本病の浸潤農家や地域においては長期間感染リスクに曝される可能性がある。

  • キーワード : 豚熱、感染試験、ウイルス排泄、ウイルス血症
  • 担当 : 動物衛生研究部門・越境性家畜感染症研究領域・海外病グループ
  • 代表連絡先 :
  • 分類 : 研究成果情報

背景・ねらい

豚熱ウイルス(CSFV)感染豚におけるウイルス排泄については、強毒株に感染した個体は、感染直後から発症期間を通して、多量のウイルスを排泄するが、低病原性株に感染した個体は、短期間かつ低量のウイルスのみを排泄する。また、排泄ウイルスの総量は、個体の品種や免疫状態および感染したウイルス株に加えて、排泄経路毎に異なる。すなわち、唾液や鼻汁中には多量のウイルスを排泄する一方で、糞便や尿中には少量のウイルスしか排泄しない。しかし、血中ウイルス力価の推移やウイルス血症の持続期間を解析した報告は複数存在する一方で、唾液、鼻汁および糞便中へのウイルス排泄の推移を解析した報告はほとんどない。唾液等の分泌・排泄物中へのウイルス排泄の推移は、感染個体を介したウイルス伝播を理解し、ウイルスによる環境汚染状況を推測する上で必須な情報である。すなわち、本病発生時に感染・同居個体や飼養畜舎に対する防疫対策を構ずる上で重要な情報である。
そこで本課題においては、現在わが国で流行しているCSFVを豚に加えて、いのししの代替としてイノブタに実験的に接種し、血中ウイルス力価の推移やウイルス血症の持続期間とともに、唾液、鼻汁および糞便中へのウイルス排泄の推移について解析する。

成果の内容・特徴

  • CSFV感染豚およびイノブタともに、血液、特に全血からウイルス接種約1か月後においても、約105 TCID50/mLのウイルスが分離される(図1)。
  • 口腔および鼻腔スワブにおいては、血液よりも2日程度遅れて、ウイルスが分離され始めるが、血液と同様に、ウイルス接種約1か月後においてもウイルスが分離され、特に口腔スワブからは血液中のウイルス力価を上回り、最大約106 TCID50/mLのウイルスが分離される(図1)。
  • 直腸スワブからは試験期間を通して、感染性のあるウイルスがほとんど分離されず、ほぼ検出限界以下である(図1)。

成果の活用面・留意点

  • 本病発生農場においては、畜舎環境が広範囲かつ長期間、ウイルスに汚染される可能性がある。また、CSFVに感染した野生イノシシの生息域においても、同様の汚染状況にある可能性がある。本成果は畜舎環境の防疫対応、また、野生イノシシの生息域における啓蒙・広報活動を実施する際の基礎的知見となる。

具体的データ

図1 CSFV感染豚およびイノブタにおけるウイルス血症およびウイルス排泄

その他

  • 予算区分 : 農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:CSFの新たな総合的防除技術の開発)
  • 研究期間 : 2020~2021年度
  • 研究担当者 : 深井克彦、西達也、舛甚賢太郎、山田学、生澤充隆
  • 発表論文等 : Fukai K. et al. (2023) Vet. Res. 54(1):81