要約
豚腎由来不死化マクロファージを用いてアフリカ豚熱ウイルスを連続継代することで得られた遺伝子変異株は豚に対する病原性を消失し、同株で免疫した豚を強毒株感染による死亡から防御する。
- キーワード : アフリカ豚熱、豚腎由来不死化マクロファージ、ワクチン、病原性
- 担当 : 動物衛生研究部門・越境性家畜感染症研究領域・海外病グループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
アフリカ豚熱(ASF)は豚やイノシシの熱性致死性感染症であり、ASFウイルス(ASFV)を原因とする。近年、ASFは東欧やアジア諸国で蔓延しており、ASFに対する弱毒生ワクチンの開発が世界的に注目されている。感受性の低い非標的細胞でウイルスを連続継代することは、ウイルスの病原性を減弱させる一般的な方法の1つであるが、同時に標的細胞における増殖性や免疫賦活化作用をも失う可能性がある。本研究では、感受性細胞である豚腎由来不死化マクロファージ(IPKM)におけるASFV Armenia07株(Arm07)の連続継代、次世代シークエンサーによるゲノム解析およびプラークアッセイによるウイルスの単離を組み合わせることで、遺伝子変異株の作出を試みる。また、同株の豚に対する病原性や同株を免疫した豚を強毒株で攻撃した際の防御効果を解析する。
成果の内容・特徴
- IPKMにおけるASFVの連続継代とウイルスの単離操作を組み合わせることで、11個の連続する遺伝子(MGF300-4L、MGF360-8L、MGF360-9L、MGF360-10L、MGF360-11L、MGF505-1R、MGF360-12L、MGF360-13L、MGF360-14L、MGF505-2RおよびMGF505-3R)を欠損した遺伝子変異株(Arm07ΔMGF)が得られる。
- Arm07ΔMGFはIPKMおよび初代肺胞マクロファージ(PAM)における増殖性を保持している(図1)。
- Arm07ΔMGFは豚に対する病原性を消失し、発熱やウイルス血症をほとんど引き起こさない。
- 少なくとも105 TCID50のArm07ΔMGFを2回免疫することで強毒株感染時の死亡を防ぐことができるが、体内における強毒株の増殖や発熱などを防ぐことはできない(図2)。
成果の活用面・留意点
- IPKMにおけるASFVの連続継代、次世代シークエンサーによるゲノム解析およびプラークアッセイによるウイルスの単離を組み合わせることで、標的細胞における増殖性を保持したうえで、様々な種類の遺伝子変異を有する株が得られる可能性がある。
- 本成果で作出される遺伝子変異ウイルスは組換え生物には該当しない(いわゆる「ナチュラルオカレンス(自然に出現する変異体)」に該当する)。同法によってワクチン効果の高い弱毒株が得られる場合は、遺伝子組換え体と比較して法令等による制約が少ない。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金、農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:官民・国際連携によるASFワクチン開発の加速化)
- 研究期間 : 2019~2022年度
- 研究担当者 : 北村知也、舛甚賢太郎、亀山健一郎、渡邉瑞季(日生研)、生澤充隆、山田学、國保健浩
- 発表論文等 :
Kitamura T. et al. (2023) Viruses. 15(2):311