要約
牛の異常産に関連するシャモンダウイルスとサシュペリウイルスの全ゲノム配列を解読したところ、シャモンダウイルスのM分節は、その末端配列が同種の他のウイルスと比べて特有の配列を有しており、系統的に離れた未知のウイルスに由来すると考えられる。
- キーワード : シャモンダウイルス、サシュペリウイルス、アルボウイルス、全ゲノム解析
- 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症領域・ウイルスグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
シャモンダウイルスとサシュペリウイルスは、どちらも同種のオルソブニャウイルス属シュマレンベルクウイルス種に属し、牛の異常産(流早死産、先天異常子の娩出)に関連するウイルスである。同種のシュマレンベルクウイルスは2011年に欧州で出現し、牛やめん羊などでの大規模な異常産の流行を引き起こしている。これらのウイルスはS、M、Lの3分節のゲノムを持ち、遺伝子再集合によって分節が組み変わったウイルスが出現することが示唆されている。このうち、M分節にはウイルスが細胞に侵入する際に重要なウイルス粒子表面の構造タンパク質等がコードされている。本研究では、各ウイルスのゲノム解析および、ウイルスの複製や翻訳、粒子形成、遺伝子再集合に重要な末端配列の機能解明のために、シャモンダウイルスとサシュペリウイルスの末端配列を含む全ゲノム配列を世界で初めて解読する。
成果の内容・特徴
- 国内で分離され、各種検査に利用されているシャモンダウイルスKSB-6/C/02株(DDBJ登録番号:LC741387-LC741389)とサシュペリウイルスKSB-2/C/08株(DDBJ登録番号:LC741384-LC741386)の全ゲノム配列を解読し、配列データベース(DDBJ)へ登録する。
- シャモンダウイルスのM分節は、同種のサシュペリウイルスやシュマレンベルクウイルスのM分節と比較して、塩基配列の類似性は低い(表1)。
- シャモンダウイルスのM分節の末端配列は、同種のサシュペリウイルスやシュマレンベルクウイルスと比べて長さも異なり、特有の配列を有する(表2)。
- 塩基配列の類似性の低さと特有の末端配列を持つことから、シャモンダウイルスのM分節は他種の未知のウイルス由来と考えられる。
成果の活用面・留意点
- オルソブニャウイルスの複製や翻訳、粒子形成、遺伝子再集合に重要な末端配列の機能解明に役立つ。
- 本成果を契機に末端配列の機能解明が進展すれば、遺伝子再集合によって生じる可能性がある新規のウイルスの予測や、その新規ウイルスの検出法開発等の監視・防疫体制の強化に貢献する。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:家畜の伝染病の国内侵入と野生動物由来リスクの管理技術の開発)
- 研究期間 : 2021~2022年度
- 研究担当者 : 須田遊人、室田勝功、梁瀬徹
- 発表論文等 :
Suda Y. et al. (2023) J. Vet. Med. Sci. (85(12):1324-1326) DOI: 10.1292/jvms.23-0275