要約
牛ウイルス性下痢ウイルスの持続感染(PI)牛は、農場にウイルスを拡散する感染源となるため、当該牛を効率的に摘発するための検査手法が求められる。本研究では、PI牛の毛根にウイルスが含まれることに着目し、PI牛診断における補助検査としての毛根検査法の有用性を示す。
- キーワード : 牛ウイルス性下痢ウイルス、持続感染牛、毛根、抗原ELISA
- 担当 : 動物衛生研究部門 動物感染症研究領域 ウイルスグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
牛ウイルス性下痢ウイルス(BVDV)は、妊娠牛に感染することで胎子へと垂直感染し、ウイルスに持続的に感染した状態の持続感染(PI)牛を娩出させる。PI牛は、臨床症状を示すことが少なく肉眼的な診断が困難であり、発見が遅れることにより農場で大量にウイルスを排泄し続ける感染源となる。このため、BVDV の蔓延防止にはPI牛の早期摘発・淘汰が重要であり、そのための効率的な検査手法の開発が求められている。
これまで、臨床現場の検査担当者らの研究報告により、PI牛は全身の毛根中にもウイルスが含まれる一方で、一過性にBVDVに感染した牛の毛根にはウイルスが含まれないことが示唆されている。そのため、毛根を用いた検査手法は、PI牛を摘発するための有用な手がかりとなり得る。そこで本研究では、PI牛の毛根材料と市販の抗原ELISA検査キットを組み合わせた検査において、検査に供試する毛根の本数や処理条件が検査結果に与える影響を評価することで、毛根を用いた検査法がPI牛診断の補助検査として有用であるか検証する。
成果の内容・特徴
- 3頭のPI牛の尾根部の毛根を用いたウイルス抗原検出ELISA検査において、毛根1本からでもウイルス抗原を検出可能であり、毛根1本を試験に用いた場合は3頭中2頭が、5本を用いた場合は全頭が検査陽性となる(図1)。
- 採取した毛根の前処理工程において抽出試薬の浸漬時間が検査結果に与える影響を評価すると、市販キット添付文書の推奨時間である一晩浸漬を行った際の数値を100%とした場合、10~120分間の浸漬により約60%、240分間の浸漬では約90%の数値が得られる(表1)。
成果の活用面・留意点
- 本成果は、現場の検査担当者が毛根を用いたPI牛検査を実施する際に、検査に必要となる毛根の本数や処理時間に関する実験条件を策定する際の指標として活用できる。
- 現在、PI牛を診断するためには、3週間以上の間隔をあけて2回の採血を行い、血中に含まれるウイルスや抗体の量を測定する必要がある。毛根を用いた検査は、PI牛のみが陽性となることが想定されるため、現行の診断における補助検査として活用することで、1回目検査の段階で高精度にPI疑い牛を識別できる可能性がある。
- 本成果では、市販の抗原ELISA検査キットを使用しており、毛根材料の使用は用法外の使用となることに留意が必要である。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 交付金
- 研究期間 : 2022年度
- 研究担当者 : 安藤清彦、大川原志織(新潟県)、村山和範(新潟県)、西森朝美、西浦玲奈、松浦裕一
- 発表論文等 :
大川原ら(2023)日本獣医師会雑誌、76(11):e283-e288