要約
遺伝子組換え技術を用いてトリアデノウイルスのファイバータンパク質を鶏に免疫すると血清中にトリアデノウイルスに対する中和抗体が誘導される。ファイバータンパク質を免疫した鶏は高病原性トリアデノウイルス株攻撃の臓器におけるウイルス増殖を抑制できる。
- キーワード : 鶏、トリアデノウイルス、ファイバータンパク質、ワクチン
- 担当 : 動物衛生研究部門・動物感染症研究領域・ウイルスグループ
- 代表連絡先 :
- 分類 : 研究成果情報
背景・ねらい
トリアデノウイルス(FAdV)は鶏の封入体肝炎や筋胃びらん等の起因ウイルスであり、国内でもしばしば流行が確認されている。また近年、近隣諸国において高い死亡率を示す高病原性FAdVの流行も報告されていることから、わが国においても予防法の確立が望まれるが、FAdV感染症に対するワクチンは国内では未開発である。
一方、遺伝子組換え技術で作製されるウイルスの外殻タンパク質の一部を模したサブユニットタンパク質やウイルス様粒子は、均質で大量に生産されうる病原性のない安全なワクチン候補として注目されている。
本研究では高い死亡率を示す高病原性FAdVの外殻タンパク質の1つであるファイバータンパク質を遺伝子組換え技術により作製しそのワクチン効果について検討する。
成果の内容・特徴
- 高病原性FAdV株(JP/LVP-1/96株)の外殻タンパク質の1つであるファイバータンパク質をバキュロウイルス-昆虫細胞発現系を用いて組換えタンパク質として大量に作製する(図1)。
- 鶏に25μg、50μg、100μgの精製した組換えファイバータンパク質をそれぞれ2回筋肉内接種すると、血清中にJP/LVP-1/96株に対する中和抗体が用量依存的に誘導される(図2)。
- 組換えファイバータンパク質を免疫した鶏にJP/LVP-1/96株で攻撃試験を行うと、免疫鶏では非免疫鶏に比べて肝臓、腎臓、腸管、脾臓でのウイルス量が有意に抑制される(図3)。
成果の活用面・留意点
- 組換えファイバータンパク質は免疫した鶏にFAdVに対する中和抗体を誘導することができ、かつ体内でのウイルス増殖を抑制できるため有効なワクチン候補となり得る。
- ワクチンとしての利用に必要な組換えファイバータンパク質の至適容量や投与間隔、使用するアジュバントの選定等についてのデータをさらに収集する必要がある。
具体的データ

その他
- 予算区分 : 農林水産省(包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業:抗菌剤に頼らない常在疾病防除技術の開発)
- 研究期間 : 2017~2021年度
- 研究担当者 : 渡邉聡子、山本佑、黒川葵、井関博、谷川太一朗、真瀬昌司
- 発表論文等 : Watanabe S. et al. (2023) Arch. Virol. 168:84